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【読後破棄】最終話だけどチートに目覚めず落ち零れパーティからさえ追放されそうな件

「で、何が起こったのか説明してくれるよな?」


 クリスのおえつが収まったところで、リタが追及した。

 あんなあられもない姿を目撃した直後だ。今や、チート能力級の魔法を何種類も使える神も同然の存在となったマリンに対し、強気に出られるのは今しかない。


「あー、そのことなんだけどねー……。リタ、もしあたしが前世で神様だったって言ったら、信じる?


 露骨にもったいぶった挙げ句、マリンはいつかのクリスと全く同じ問いを発してきた。


「むしろそうじゃないって言われたほうが信じがたい」


「あ、そ。――あたしは生まれ変わる前ティル・ナ・ノーグってとこにいてね、モリアンって呼ばれてた」


「ティル・ナ・ノーグ? さっき魔王も言ってたけど、それより前からどっかで聞いたことあるような……」


「えっ? リタもう忘れちゃったの? 前に私が話したじゃない。私はティル・ナ・ノーグを訪れて、そこでドルイドの魔法で転生させてもらったって」


 クリスが不信感も露わにリタをねめつける。


「実はスクルドがティル・ナ・ノーグに来た時あたしもその場にいたし、転生にも立ち会った。でもその後ほかの神界からも、異世界へ送ってほしいって頼ってきた神が大勢いたの。オリンポスからはアテナさん、崑崙からは九天玄女さんが来たわ。そのあとしばらくして、ティル・ナ・ノーグにも死んだ人の魂が来なくなってることが分かったの。あとはスクルドと同じ。あたしが原因を調べることになったってわけ。――まさかそのことを忘れちゃうなんて、大誤算だったけど」


「ティル・ナ・ノーグもアースガルズみたいに、死者の軍隊を作ってるの?」


「軍隊ってほど大仰なモンでもないけどね。ただ、もし地上が危機に見舞われることがあったら、それを救うのに力を貸してもらおうと思って、ときどき招いてんのよ。――さて、と。そろそろあの物騒な剣、へし折りましょう。あたしらの仕事に支障をきたしかねないわ」


「うん。――リタ。前に『リタがスルタロギを持っても構わない』って言ったけど、やっぱり破壊していいかしら?」


 クリスが問うた。


「どちらかというと、ぼくは持ってたいな。そしたらぼくも人並みに戦えるはずだし。みんなに守ってもらわなくてもよくなる」


「動機は嬉しい。だけどね、聞いて。あなたが前みたいに別の冒険者と戦って、その剣の力を見せつけたらどうなる? 彼らはきっと別の誰かに話して、スルタロギの存在が瞬く間に知れ渡るわ。そしたら、それを欲しがる人がみんな私たちを狙うことになる。私たち、四六時中おきて戦いに備えることなんて、できないでしょう?」


「おちおちパンも食べてらんなくなるわねー」


 茶化すマリンにクリスがあかんべをした。


「昔、アースガルズにも似たような事例があったの。あの時は指環だったけど。人の欲望を刺激するもので、容易に他人の手に渡りうるものを持つには、それなりの覚悟が必要なの」


「ごめん。ぼくが浅はかだった。やっぱり今すぐ壊そう」


 若干おどされた感はあるが、リタは心底クリスに同意した。



    ◇    ◇    ◇



 クリスは祭壇の中央に再びスルタロギを突き立て、そこから10歩くらい離れて向き直った。

 マリンは剣を挟んでクリスの反対側に立ち、彼女と向かい合わせになった。

 2人とも右手の人差し指で、虚空に文字を描いた。どちらの筆跡も、いぶし銀のように輝いている。


「今からスルタロギを破壊するけど、使うのは水の魔法。反対向きの魔法を同時に放って、せん断力で刀身を断ち切るわ。それでいい?」


 これから始めることの内容をクリスが確認する。


「異議なーし」


「――あ、ちょっと待って! マリン、念のため言っとくけど、私に水かけないでよね。前みたいにずぶ濡れになったら堪らないわ」


「…………ちっ!」


 マリンは残念そうに指をはじいた。


「じゃ、行くわね。せー……」


「のー……」


「でっ!」


 2人が先に刻んだ文字のすぐ前から、透明な三日月状のものが打ち出される。それはスルタロギ目がけてまっすぐ飛び、刃の中央ですれ違った。

 次の瞬間、上半分の柄を含むほうが落下した。


「フレイヤ……。あなたの心配の種、1つは取り除いたわよ。このお礼は高くつくから」


 クリスがため息をついた。



    ◇    ◇    ◇



 その後、2人は念のためにと剣をさらに細かく切り刻み、破片の1つを埋め他のものを巾着袋に入れた。

 誰かが鍛え直したりしないように、海や別の洞窟など様々な場所に捨てるのだという。これもクリスの発案だ。


「ねえ、クリス」


 リタがおもむろに口を開いた。


「何?」


「アースガルズの神々は巨人と戦って、共に滅びる運命にあるって、魔王が言ってたけど……」


 クリスは表情を曇らせ、しばし黙りこむ。その後、自らを奮い立たせるようにして言った。


「私はまだ、諦めたわけじゃない。もし私たちが何をするのかに関係なく、未来が固定されているのなら、私はいくさ娘を兼任して、人間の助けを求めたりしない」


「言っとっけど」マリンが口を挟んだ。「もし巨人たちがアースガルズに攻め込んだら、ティル・ナ・ノーグは黙っちゃいないわよ。仲間の誰かが困難に直面したら、全員でこれに対処する。小さな厄介に巻き込まれる回数は増えるけど、1人じゃ手に負えないような危険を避けるための基本だわ」


「ありがとう」


「ここでの仕事かたづけたら、味方を探しなさい。その余裕ならまだあるでしょ? 今はまだ、ヨートゥンヘイムの霜の巨人たちと、ムスペルヘイムの炎の巨人たちはいがみ合っている。一枚岩になるには、もう少し時間が必要なはずよ」


「うん……」


「ところで、マリンの魔法はルーンとは違うの?」


 リタが興味本位で尋ねる。


「ま、似たようなモンね。あたしのはオガムって呼ばれてる」


「ふうん」


「それはそうと、これからどこへ行く?」クリスが2人を見回した。「私とマリン、目的が同じなのは分かったけど、結局なにをすればそれが達成できるか、まだ少しも分かってないわ」


「ま、当面は適当に旅をするしかないわね。あんただって、本当はそれがお望みなんじゃないの?」


「……バカ……」


 クリスが顔を赤らめた。


「調査もいいけど、他にも異世界に来た子たちを探して合流する必要があるわね。そのほうが効率がいいでしょ?」


「みんなも自分の前世とか忘れちゃってたらどうしよう」


「十分あり得ることだわ。だから早く見つけて、記憶を蘇らせてあげないと。――そうそう。九天玄女さんから聞いたんだけど、高天原(たかまのはら)須弥山(しゅみせん)の神々も動き出してるわよ。……あそこの同盟関係も長いわよね。もう1500年近くになるんじゃない?」


「何ですって?」


「高天原からはツキサカキ=イズノミタマさん、おん自ら須弥山を訪れて、チュンディーさんと一緒に異世界へ旅立ったそうよ」


「最強のアラミタマに、恐るべきを名にし負う女神……。よりにもよってあの2人が……」


 クリスは身震いした。


「大丈夫でしょ。どっちも話の分かる子だから。敵対する理由もないんだし」


「それもそうね」


 2人が聞いたこともない人名を連発し、神話的スケールの話に興じるのを聞いていて、リタは一抹の寂しさを覚えた。彼女らはもはや、同じ場所に居ながら自分の手の届かない次元へいってしまったように感じた。

 戦力外通告をされる前に、自分からパーティを抜けてしまおうとさえ思った。


「はは、は……。なんかもう、ぼくなんかがついていっても、足手まといにしかならなさそうな話だな」


「だとしても、あんたには来てもらうかんね!」


 マリンがリタを見つめる。その顔から、先刻までの冗談ぽさは消え失せていた。


「いいのか? ぼくチート能力さえ持ってないんだよ?」


「チートかどうかは分からないけど、何かの力は働いてる」


 クリスも真顔だ。


「あのね。あたしもクリスも確かに異世界の住人として、前世のことみんな忘れたまま何年も生きてきた。でもあんたと会ってたった2週間のうちに、あたしら2人とも自分の正体と役目を思い出した。こんな偶然あると思う?」


「思う」


「じゃ、もう1つ。私とマリンは未来とか予言とか、人間の運命に特に深く関わる事柄を司っているの。それだけ人の運命に干渉する力も強いってこと。あなたは旅立ってから2日足らずで私たち2人と出会った。これも偶然?」


「あ……」


「人の運命を決定する権限を持つ神の運命を、逆に操作した。それも2人も。あまつさえ当人にそれを気づかせることもなく。さあこれから異世界でひと仕事やりますかっていうあたしらが、そんな危険な力を行使した可能性のあるあんたを、野放しにすると思う?」


「ぼくのこと、消すつもりか?」


 リタの問いに対し、マリンは目が点になった。


「ばっかじゃないの? なんで一気にそんな物騒な方向に話が飛ぶのよ。危険因子にいきなり戦いをしかけるバカがどこにいんの? まずは懐柔とか、もっと穏便な手段を模索するでしょ」


「マリンは戦いの女神。私はいくさ娘。ある程度、兵法の素養がある。話が長くなったけど、私たちが言いたいのは――」


「つべこべ言わずについて来い、ちゅうこと!」



    ◇    ◇    ◇



 それから数週間ほどのち、異世界中に不思議なうわさが流れ出した。


 いわく、恐ろしく強い1組のパーティが、異世界の成り立ちや法則を探っていると。

 属する者は己のランクを上げる一切の行為に関心を払わず、全員が冒険者ランキングの外にいる。しかし、不用意に戦いを挑んだ者はみな苛烈な反撃を受け、ほうほうのていで帰ってくる。


 いつしか誰からとなく、彼らのことをこう呼ぶようになった。


 ――Divine(ディバイン・) Detectives(ディテクティブズ)。すなわち、神聖査察団と。

『DDランク(底辺)(以下略)』はこの回で完結です。最後までお読みくださりありがとうございました。


 このお話は当方初の異世界転生、初のハイファンタジーです。

 実のところ当方はローファンタジーのほうが好きで、過去に『魔法少女3人寄ればかしましいなんてモンじゃない』という作品も書きました(完結済み。このページのいちばん下にリンクを貼ってあります)。


『DDランク』は北欧・ケルト神話がメインですが、『魔法少女(略)』は現代の日本が舞台ということで、中国・インド・日本神話に登場する魔法のウェイトが高く、ルーン文字やオガム文字は1人のキャラが二刀流で使用しています。『DDランク』とは対照的な雰囲気になっているかと思います。そちらも楽しんでいただけると嬉しく存じます。


『魔法少女』は戦闘システムに関し、「なろうファンタジー」のお約束を逸脱している点が多々あると、前々からご指摘を受けております。そこで、あちらのバトルの雰囲気を味わっていただくべく、お試し版としてつい先日、『転生したはずの異世界にはすでに政府が巫女や陰陽師や僧侶を送り込んでいて日本の植民地になる寸前でした』を投稿したところです。

 こちらは短編ですので、ぜひトライして欲しい所存です。


 第1回あとがきのくり返しになりますが、このお話に対する感想・レビュー・評価は大歓迎です。ただし感想に関しては、勝手ながらマイページのメッセージ機能でのみ、お受けしております。ご不便をおかけ致します。

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