桜
あっという間に散ってしまうのに、どうして君は咲くんだい?
去年も、一昨年も、その前の年も、一生懸命寒さを耐えて、それで咲いたのにすぐに散ってしまったろ?
それなのにどうして毎年懲りずに咲くんだい?
―――だって、ヒトは喜んでくれるじゃない。
綺麗だと言って、愛でてくれるじゃない。
散って踏み潰されて、雨に打たれた花びらは誰も綺麗だなんて言わないのに…?
―――あなたは私を綺麗だと思ったことはあるかしら?
そりゃあもちろん。
毎年楽しみにしているさ。
そうとも理由は綺麗だからさ。
―――どうもありがとう。それが答えよ。
それは一体、どういうことだい?
―――たった一瞬でいいの。
その‘一瞬’は、ある人にとっては花が咲き始める蕾。
ある人にとっては、満開の時期。
ある人にとっては、舞い散る花吹雪。
ある人にとっては、花びらが落ちたあとの葉桜…。
たった一瞬でも美しいと、綺麗だと思って貰えたら
それだけで私は幸せなの。
きっと人も同じよ。
それが若い頃なのか、年老いた時なのか、
それはわからないけれど、一瞬でも綺麗だと
そう思ってもらえたら、それだけで幸せでしょう?
また、咲いてくれるかい?
―――ええ。また来年。また、来年会いましょう。
あなたはもう咲きましたか?
まだ蕾ですか?
あるいは、今まさに満開だという方もいるでしょう。
花は満開の時だけ美しいわけではないと、私はそう思います。