prologue
両親が死んだのは8つの時だった。兄はまだ12歳。死にそうなほどの悲しさと押し潰されそうな程の不安があった。そして何より、最後に残った兄もまた失ってしまうんじゃないかという思いで胸が引き裂かれそうになって、なにも考えたくなくなっていた。
葬儀が終わった時、放心状態でこのまま一生何も考えずにいられたら楽だろうなと思っていると、そんな私を兄が抱きしめて、言った。
「お前を一人にはしねえから…!」
「死んでも一緒にいる…だから…だから…」
「約束だ…俺の前からいなくなるな……っっ!!」
その時、あの意地っ張りな兄が見た事ないほど泣いている事に気づいて、なんとも言えなかった私は締め付けられる心の意味もわからないまま兄を抱き返していた。
そしてようやく泣けた。抱きしめる力が強くて苦しかったけど、安心した。
二人で一緒にいると誓ったあの日から、強くなろうと足掻き始めた。私は勉強や習い事を死ぬ気で頑張り出した。成績はいつでもフルスコア。運動でも勉強も誰も寄せ付けない一人の天才が誕生した。そうやって誰もが認める存在になれば自分一人でも兄を守れるようになれると子どもながらに考えたのだった。
兄はというと、勉強も習い事も放り出した。当時は親を失ったショックがまだ抜け切らないのだろうと思って自分一人だけども頑張ろうとして気づかなかったが、兄はずっと体を鍛えていた。誰にも負けない自分になろうと。私をどんな脅威からも守れるようにと。鍛えて鍛えて、戦い続けていた。
結果。五年経った現在。
アホな兄は高校二年生となり、知る人が聞けば誰もが恐れる地元で最強の不良となった。
中学二年生になって未だ完璧超人として頂点に立ち続ける私は紆余曲折あって町の平和を守る魔法少女をやっている。