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第4話 鍛冶屋に入店してみる

 アルスとエルリアは、手を繋いだまま鍛冶屋に入店してしまった。

 それを気付かれては、時すでに遅し。

 親密な仲に思われるその情景。


 それを鍛冶屋の少女、ルティス・ネラカンドは目撃していた。

 彼女は、入店してきた二人へ元気に挨拶をする。


「いらっしゃいませっス~! ん? もう一人のいけてる兄さんは見ない顔っスねー?」

「俺はアルス・リヒト・フォヴェッシューゲンという者だ」

「なるほど~。そんで、手を繋いで入店してきたってことは、アルスさんは、エルリアさんとはそういう仲っスか?」


 明らかに恋人どうしを思わせる台詞に、エルリアは赤面する。


「ちょっ、ルティスくん…! 私たちはその、そういうわけでは……!」


 エルリアは、金髪を揺らしながらあたふたとしている。


 それを眺めて、ルティスという短髪で赤髪の少女は、にししと笑う。彼女は、白シャツに赤のオーバーオールを着ており、瞳は青色だ。


「申し遅れたっスね。アルスさん。アッシはルティス・ネラカンド。鍛冶屋をやってるっスよ!」

「鍛冶屋か、ここには初めて来たな」


 鍛冶屋の内装はシンプルで、中央には剣を加工するための炉などがある。

 壁には剣などが掛けられていた。

 その一つ一つが新品で、博物館の展示品のようだった。


「そんで、うちのお得意様はエルリアさんっスよね。今日はどんなご用っスか?」

「あ、あぁ、実は私のロングソードが指で砕かれてしまってな」

「まさかぁ! 剣を指で砕くとかわるい夢でも見たんじゃないっスか?」


 そこで、エルリアは説明に困ったように、アルスの方を向く。


「いや本当なんだ、私の隣にいるアルスくんがな、パキッと」

「……アルスさん、いったい何者なんスか」


 そこで、ルティスの顔がわずかにひきつる。アルスは苦笑した。


「俺は冒険者兼、魔王らしい。ギルド内では、強すぎるとか言われてるそうだよ」

「ひいっ。でも、ゆ、指でロングソード破壊するとか、力が強いどころじゃないッスよ?」

「そう言われても、できたもんはできたからな」


 ルティスも、これには参ったという表情をする。


「ひいぃ、アルスさんが思いきりぶん回しても壊れない剣ってのが想像つかないっスね!」

「まぁ、俺が剣を持つかどうかわかんねーけどな」

「あっ、でも魔王様なら魔剣とか良さそうっスね」


 そこで、ルティスは壁に掛けられている剣を指差した。

柄が濃い紫色の剣だった。


 エルリアは、魔剣と呼ばれる装備には興味があるらしく、近くで見ようと剣の方へと歩いていく。


「ほう~。これが魔剣ってやつか。私は持ったことがないな」

「ふっふっふ、その魔剣はすごいっスよ? 一度斬れば、呪いにより相手の体力を吸い尽くす曰く付きの品っス!」

「そ、それはそれは恐ろしい能力付きだな?」


 エルリアは、その説明に思わずのけぞった。

 アルスはというと、それを聞こうと平然な顔をしている。


「なるほど、つまりその魔剣と俺が合わされば最強ってことか」

「アルスさんは剣なくても最強に見えるっスよ!? ていうか、魔剣までパキッ、とかはやめてくださいっス!?」


 途端に慌てはじめるルティスに、アルスは平淡な様子でいた。


「大丈夫だ、そこまで節操なくパキポキやってねーよ」

「そ、そっスか。にしてもまずは、エルリアさんのロングソードを直すのが先決っスね。直るまで代わりに、同じ形のロングソード遣っててくださいっスよ」


 そこで、ルティスはエルリアの愛剣を受け取って、代わりの剣を手渡した。エルリアは、そこで代わりの剣が馴染むかどうか確かめるべく問う。


「ルティスくん、少し代わりの剣を抜剣していいかい?」

「あ、どうぞっス~」


 エルリアは、慣れた手付きで、ほぼ音をたてずに剣を抜く。よく鍛えられた銀色の剣身が姿を見せた。


「ふむ……持ってみたところ、これもよく馴染みそうだな。ありがとう!」

「どういたしましてーっス。そんで、アルスさんはなんか買うっスか?」

「俺? 俺はべつに、考えてなかったな」


 それを聞くと、赤髪の少女はにししっと笑って人差し指をたてた。


「けど、武器のひとつくらいは持っといた方が便利な気もするっスよ? 最近は、王都付近のモンスターも凶暴化してるって噂っスから」

「そうなのか。凶暴化してるなんて思ってなかった」


 そこで突然、警報を示す鐘の音が、王都に鳴り響く。即座にアルスは鍛冶屋の外に出る。

 通りにいる人々もどよめいていた。


 そして、街の各地に設置されている拡声器から、具体的な状況が述べられる。


「警報発令中、警報発令中、王都東区の外壁が破壊され、モンスターが侵入しました。これは訓練ではありません。繰り返します、王都東区の……」


  突如、鳴り響いた鐘の音。聞くところ、東区にモンスターが出現したようだ。


「ひいっ。街の中にモンスターとかまじっスか!」

「なっ、王都の分厚い外壁を破壊して入ってきたのか!?」


 鍛冶屋にいる二人がざわめく中、アルスは店の外に出て警報を聞いていた。

 しかし彼は、騒然とする街に反してワクワクしていたのだった。


「壁を破壊して侵入か……なかなか粋な演出してくれるじゃねーか!」

「アルスくん! 私もその場へ急ぐぞっ、いこう!」


 エルリアも店の外に出て、アルスの方へ駆けてくる。だが、その返答を待つ前にアルスは発走してしまっていた。


 アルスの速力は凄まじかった。彼は轟音をたてて混乱した街を疾駆する。


 エルリアが魔力で加速しても、とうてい追い付けない爆走だった。彼女は驚嘆して、言った。


「は、速すぎる!」


 エルリアを置き去りにし、北区から東区までほぼ十数秒で移動してしまったアルス。


 すると、東区の分厚い外壁には大穴が穿たれていた。

 辺りには、破壊された外壁から煙る土煙が立ち込めている。


 その周囲に居るのは大型のミノタウロス。

 牛の頭をした、二足歩行の剛健なモンスターである。


それだけではない。ミノタウロスは全部で十五体の群れで王都に進行していたのだ。

 巨大な両刃の斧を、各々持っていた。


 一体のみでも、強力なモンスターがなんと十五体。

 普通なら、単身で挑むなどという愚策は考えられない。


「お前らが、街に進行してきた奴等か」


 しかし、それでもアルスは単独で立ち向かう。

 逃げ惑う街の人々をよそに、アルスは悠然とミノタウロス達の眼前に立っていた。


「ブモオオオオオオオオオオオオオオオッ!」


 そこで、ミノタウロスは威嚇とばかりに、アルスへ吼える。


「うるせーな。いいからかかってこい」


 アルスはその威嚇に動じる様子もない。


 ここに、最強の魔王と強力なモンスター達の戦闘が勃発した。

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