第1話 仲間を探してみる
「というワケなんですよ」
「えっ、すごーい。じゃあアルス君はCランクのモンスターまで倒しちゃったんだ? 小国家を破壊できるほど強いモンスターまで?」
アルスは、冒険者ギルドのある王都アガトに戻ってきていた。
ギルド内のカフェで、一人の女性と席に座っている。彼女はギルドの受付嬢であるリフィル・スレイであった。
彼女は美人。緑色の髪で、深緑色のギルドの制服に身を包んでいた。制服の中からでも、豊かな双丘がうかがえる。
しかしアルスの語調は淡々としていた。
美人であるリフィルの前でも、それは変わることがない。
「あー、はい。予想外ではあったけど、あっけなかったって感じっす」
「へぇ~。アルス君はすごく強いんだね~。私のこと、護ってもらっちゃおっかな?」
「護衛とかはあまり得意じゃないっすよ」
時刻は昼。
休憩時間ということで、都営ギルドの職員も各々自由な時間をとっていた。
リフィルは、退屈そうなアルスに一つの提案をしてみることにした。
「ね、アルス君。冒険者ギルドにはパーティって呼ばれるものもあるんだけど、参加してみる気はない?」
「パーティ、うーん。あんま考えてなかったっすね」
パーティというのは、端的に言えば、受けた依頼を共同でこなす仲間のようなものだった。
アルスも、パーティについては聞いたことがある。しかし、どんな依頼でも言ってしまえば単独で事足りていた。なので入ろうと思ったことはなかった。
パーティに加入するのは自信のない者の証だ、とかそういうわけではなく。
今までは単に気乗りもしていなかったのだ。
「そうなんだ? パーティに入るとけっこう、充実感が味わえると思うな~。前の依頼は、単に小型モンスターを倒す団体クエストだっただけでしょ?」
「充実感……」
充実感、という言葉に少年は反応した。
たしかに、ギルドに入ったことへ充実感を見出だしたいという気持ちはある。
それならば、パーティの事について少しだけ尋ねてみることにした。
「その、パーティってのは今、受け入れ中のところとかあるんですか?」
「あるよ~? でもアルス君の強さならぶっちゃけ、どこでも入れるんじゃないかな?」
「そうっすか」
そしてリフィルは、机の上で資料の冊子をパラパラと捲り始める。ページを止めては、そこをアルスへ見せてきた。
「この、レインアルカードっていう最近できたパーティがおすすめかな? できたばかりで、隊員数も少ないし、たぶんアルス君と同年代の子も結構いるよ?」
「なるほど、たしか俺ランクとか、Eランクなんですけど」
「あはは~、アルス君、冒険者ランク昇進の申請とかしてないもんね。本来ならSランクとかいくと思うけどなぁ」
「あまり目立つつもりもないんで別に、Eでもいいっす」
「そっかぁ、それでもアルス君、ギルドでは噂だから受け入れてくれるかもね」
最高ランクの冒険者が、Sランク冒険者である。ギルド内では、勇者に討たれた魔王の子が凄まじく強いと噂になっていた。アルスの強さは、Sランクに間違いなく値するだろう、と
その噂について、アルスはさほど気にしてはいない。
「あっ、アルス君。私はそろそろ休憩時間が終わるからいくね。パーティの場所は、このメモを参考にして行けば見つかるから! じゃあ、またね!」
リフィルはメモ用紙を残して、その場を去っていった。
アルスはコーヒーをひとつ口に含む。そして、そのメモの場所に視線を落とした。
「ギルドの二階……寮か」
ギルドでは、冒険者へ寮の提供も無償で行っている。
そのくらい世話をみても、ギルドに充分なメリットがあるからだ。
アルスはコーヒーを飲み終える。
そして、どこへ行こうかと思案した。
ひとまずは、彼の住んでいる小国ヴラタの王城へ帰ることにした。
アルスはさっそく、転移魔法を行使する。
正しく、寂れたヴラタの王城内へと転移した。
ヴラタは、アルスの生まれ故郷である。
しかし前魔王が討たれたことにより政体は崩壊。
今は無法地帯となっていた。
アルスは、おもむろに玉座へ腰かけた。
もう誰も残っていない荒廃した城内には、アルス独りがいた。
「パーティ、か……」
玉座に腰掛けてみても、べつに側近がいるわけでもない。報告をくれる臣下すらも、べつにいるわけではない。
退屈な時間が過ぎるのみだった。
あるのはただの孤独だけである。
アルスは一人、王座に腰掛けて足をぶらつかせていた。
そして数分過ぎたあと、おもむろに立ち上がった。
「……やっぱいくか」
この孤独が、暇で暇で仕方がない。
やはりアルスはパーティを訪ねてみることにした。