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5話:はじめての戦闘

 A.W.O(アヲ)を始めてその光景に圧倒されていた私は、レイゼとエミリアと一緒に街の外にある平原に来ていた。茜色の夕陽に照らされた草たちは淡く燃えているようで、風が吹けば揺れてサラサラと音を奏でる。というかA.W.O(アヲ)って吹く風まで再現してるんだね、残念ながらその風を感じる事はできないけど。


「それじゃあ早速、手頃なモンスターでも倒して戦闘の基本を覚えていこうか」

「おねがいします!」


 ふふふ、私の双剣が唸りをあげる。そうかそうかお前も敵を倒したいのか。今宵の双剣を血に飢えているぞ。なんだか全然負ける気がしない。

 さあ、どんな敵でもかかってきなさい!



 ──ぷる、ぷる。



 おお、あれは! ゲームいえばどこでも同じの定番モンスターのスライムくんじゃありませんか。青いゼリー状の体をプルプルと震わせて周囲を徘徊している。

 キミに恨みはないが、私の剣の錆となるがいい!


「くらえっ!」

 ──ぷるるん。


 思い切り双剣を振り下ろすけど、スライムはアッサリと私の攻撃を受けて切れた体が元どおりになってしまった。おのれ、スライムなのに私の攻撃を受けて無傷とはやるじゃないか。さてはこのエリアのボスだなキミは!?


 ──ぷるんっ!

「へぶゅ!」


 スライムの突進を顔面に受けてしまった。視界がグラっと歪んで私は地面に倒れこむ。

 おのれぇ、私に傷を与えるとはなんて奴だ。動きも俊敏で、この子はかなりの強敵と見た。


 ──ぷるぅ? ぷるん! ぷるん!


 くそう、あのスライムめ、勝ち誇るようにぴょんぴょん跳ねている。こなったらなんとしても倒してやる!


「やあっ、とりゃ、うりゃ!」

 ──ぷる、ぷるん、ぷるるん。ぷるっ!

「へびゃ!?」


 うぐぅ、ダメだ、まったく攻撃が通らない。いくら切りかかってもスライムのゼリー状の体にはなんの効果もない。スライムだと思って甘く見ていた。まさか物理攻撃が効かないなんて。

 再び反撃を受けてしまったし、私の体力ゲージが3割ほどまで減ってしまった。どうしよう、このままじゃ負けちゃうかも。


「うわーん、2人とも助けて〜!」


 スライムがこんなに強いなんて思わなくて、私はレイゼとエミリアの所まで這いながら逃げた。悔しいけど認めるしかない、このスライムは強い。まさかこんな最初から幸先が悪いなんて、本当にあの子はこのエリアのボスクラスに違いないだろう。


「あらあら、大丈夫ですかリリィさん?」

「うぅ、大丈夫じゃない。あのスライム強すぎるよぉ」

「そりゃ目を瞑りながら攻撃してたらうまく当たらないさ。よく見てみなリリィ、あのスライムの中心に大きな植物の種みたいなのがあるだろ? あそこに当てないと物理攻撃じゃダメージは与えられないよ」


 ホントだ。よく見たらスライムの体の中心になんか植物っぽい大きな種が浮かんでいる。あれがスライムの弱点なのか。よーし、攻略法さえわかってしまえば、もう怖いものなんてないぞ!


「よーし、キミの弱点は知り尽くした! おとなしく私に倒されるんだ! とうっ!」

 ──ぷるん! ぷるっ!

「かわされた!? むぎゃっ」


 くそー! 思いっきり突き出した攻撃は回避されて、そのまま反撃されてしまった。


「あらら、それじゃダメだよリリィ。腰が引けてるし、もっと早く動かないと」

「うー! だって運動とか得意じゃないもん! それに武器の使い方なんてよくわからないよ!」

「よく考えてみなよ。ここでの体は現実(リアル)の体とは違う。現実(リアル)と同じように動かせば、現実(リアル)と同じようにしか動けない。大事なのはどうやってこの体を動かすのじゃなくて、どのようにこの体を動かしたいのか。それを想像するんだ」

「動かすんじゃなくて、どうやって動かしたいのか……想像、想像……」


 この体は槇波 梨々香のものではなくリリィの体。現実での体の感覚を忘れて、ただどうやって動きたいのかだけを純粋に想像する。


「……っ!」


 踏み込んだ足はとても軽やかで、両手に握っている剣は羽のようで、その動きは針のように鋭くスライムの中にある核を切り裂いた。スライムの上にある緑色のゲージが全部なくなると、スライムは青白い泡のような光となって消えてなくなった。そして戦闘結果(リザルト)という表示が現れて、獲得経験値が表示されている。


「……勝った? 私、勝ったの? やったぁぁ!!」


 嬉しさのあまり飛び跳ねて、2人に勝利のVサインをする。

 ふふふ、初戦でボスを倒してしまうとは、我ながら恐ろしい才能だ。これからリリィの伝説は始まり、この名はA.W.O(アヲ)で知らぬ者がいない程に広まっていくのだ。


「おめでとうございますリリィさん。初戦闘で勝利とは凄いです」

「最初は危なっかしかったけどね。まあ、ザコモンスターにスライムに負けるプレイヤーなんていないか」

「え、ザコモンスターって、あのスライム、ボスモンスターとかじゃないの?」

「え?」


 ちょっとレイゼ、そのカワイソウな人を見る目をやめてよ。ていうか、あのスライムってボスモンスターとかじゃないの?


「……ええと、なんと言えばいいのでしょうか。リリィさんが倒したスライムはその、どこにでもいる、初心者が戦う最下級モンスターなんです」

「それじゃあ、ボスモンスターでもなければ、レアモンスターでもない、本当にただのザコモンスターってこと?」

「そうだね」

「そんなぁ〜!」


 そんなバカな……あれだけ苦労して倒したのに、まさかただのザコモンスターだったなんて。私はそんな相手に体力を半分近く削られて苦戦したっていうの? どうやらリリィの伝説は始まってすぐ終わりを迎えてしまったようだ。


「ほらほら、そんなにガッカリしてないで次に行くよ。基本はわかったんだし、あとは慣れていくだけだ」

「う、うん」


 レイゼに言われて、私たちは再び平原を歩いていく。そうだよね、誰だって最初は不慣れなもんだよんね。これからじっくりと成長していけばいいんだ。私は大器晩成型だからね。

 そうして歩いていると、またスライムと出くわした。


「それじゃあさっきの感覚を思い出して、もう一度戦ってもらおうか。はい、回復」

「ありがとレイゼ! よーし、もうキミたちなんて怖くないぞ!」


 軽やかな踏み込みに、鋭い攻撃。さっきの戦いが嘘かのようにスライムを呆気なく倒してしまった。どうやら私には、A.W.O(アヲ)の才能があるのかもしれない。こんなにも早く動きのコツを掴んで慣れてしまうなんて、我ながら恐ろしい。

 そして、どうやらここはスライムが湧くポイントなのか、次々と別のスライムたちが現れた。だけど、いくらたくさん来ようがもう負けてあげる私ではないのだ。


「やあっ! とうっ! うりゃりゃっ!」


 華麗に踊るように、私の体は身軽に動き、流れるように繰り出される双剣の一撃でスライムたちをあっという間に倒してしまう。

 ふふふ、つまらぬものを斬ってしまった。もう私に勝てる相手なんてどこにもいないのだ。



『キャラクターのレベルが上がりました』

 リリィ LV1→LV2

 HP 50→55

 MP 20→23

 SP 45→50

 ATK E  DEF E−  VIT E−

 MAT F  MDF E  MEN E−

 AGL E→E+

『新しいスキルを習得しました』

〈ツインブレイドLV1〉



 スライムの群れを倒し終わると、私の目の前にレベルアップを知らせるウィンドウが浮かび上がった。ついでになんか新しいスキルも覚えたようだ。


「うおぉ!? レベルが上がったよ!」

「おめでとうございますリリィさん」

「んー、でもやっぱりジョブのせいか、レベルが上がってもステータスはあまり伸びないね」

「仕方ないさ。デュアルソードのジョブはステータスよりもスキルの多彩さで勝負するジョブだからね。2レベルでスキルを覚えるなんて、やっぱり早いね」


 ふむふむ、デュアルソードはスキルを覚えやすいのと、ステータスではスピードが上がりやすいようだ。試しに、覚えたスキルの効果を確認をしてみよう。



〈ツインブレイドLV1〉

 消費SP5

 クールタイム7秒

 相手に105%の物理ダメージを2回連続与える。



 なるほど、通常攻撃よりも高いダメージを連続で与えられるみたいだ。ダメージとしては小さいものだけど、どうやら何度も使えばスキルのレベルも上がるみたいで、与えられるダメージも増えるらしい。最高レベルは10みたいだけど、そこまで上げるのに……うひゃあ、ちょっとゼロの数が多いんじゃないかな?


「さて、スキルも新しく覚えたみたいだし、今日はスキルの使い方を覚えたところで終わりにしよっか」

「ふふん、任せなさい! スライム程度じゃ私を止められないよ!」

「こらこら、あまり調子に乗るんじゃない。次の相手はスライムよりも少し手強いからね、油断してるとやられちゃうよ」


 そう言ってレイゼが指差したところに、一匹の狼がいた。灰色の毛でお腹は白くて、大きさはゴールデンレトリーバーよりも少し小さいくらいだ。私たちに気付いたようで、鋭い歯を剥き出しにして威嚇してきた。


「お、おぉ! やるのか?」

「気を付けなよリリィ、そいつはグレイウルフ、さっきのスライムより速くて攻撃力も高いからね」

「グルル……グアァ!」

「ふにゃぁ!?」


 吠えながらグレイウルフは突進してきて、ビックリした私は思わず剣を交差させて攻撃力を防いだ。うぅ、あのギザギザした歯で噛みつかれたら痛そうだ。剣に歯を突き立てているグレイウルフを突き飛ばして、今度は私から攻撃を仕掛ける。新しく覚えたスキルをくらうがいい!


「ひっさーつ! 〈ツインブレイド〉──おおっ!?」


 スキルを発動させると、双剣が淡い緑色に輝いて、私の体が勝手に動き出してグレイウルフに攻撃を仕掛けた。

 交差して繰り出される強力な連続攻撃。だけどさっきまでの動きの遅かったスライムと違い、グレイウルフは後ろに飛び退いて私の攻撃を回避した。


「むー、惜しい!」

「スキル単体で攻撃しても回避されやすいから、普通の攻撃から繋げたほうがいいよ。それとスキル攻撃には自動の攻撃モーションがあるけど、ある程度ならリリィの方でも調整できるからね」

「ファイトですよリリィさん」


 なるほど、どうやらスライムにように簡単には倒せない相手のようだ。しかーし! 私は常に進化し続けるのだ。2人の応援を背に再びグレイウルフと対峙する。


「……グルァ!」

「よっと! とりゃ!」

「キャウッ!」


 再び飛びかかってくるグレイウルフの攻撃を回避して、すれ違いざまに攻撃するが少し浅かったようだ。しかし今がチャンス! グレイウルフに接近して追撃をする。


「くらえ、うりゃ!」

「グアァ!」


 やっぱりまだ元気なようで、足元を狙った攻撃を再び飛び退いて回避される。けど、それは大きな隙だよ!


「必殺! 〈ツインブレイド〉!」


 グレイウルフが飛び退いた直後に、スキルを発動させる。

 しゃがんでいるように低い姿勢から地面を踏みしめて空中にいるグレイウルフの懐に迫り、その腹部に剣を交差させて強力な攻撃を与える。


「グ、ギュアァ!」


 攻撃は見事にクリーンヒット。グレイウルフは苦しそうな呻き声をあげると、光の粒子となって消えた。

 戦闘結果(リザルト)画面も表示されて……お、やっぱりスライムよりも経験値が多い。


「むふふ、見事な勝利!」

「よくやったねリリィ、初めてなのにここまで動けるなんて大したもんだよ。アタシが始めた時よりも動きがいいね」

「もしかしたらリリィさん、A.W.O(アヲ)の才能があるんじゃないですか?」

「わっはっは! もっと褒め称えるがいい!」

「こらこら、あんまり調子に乗るんじゃないの。たしかに操作は上手いけど、まだまだレベルが低いんだから、高レベルモンスターやタチの悪いPKに出くわしたら危険だよ」

「はーい」


 むむ、たしかに私のプレイングは天才的だけど、まだまだレベルが低いから油断は禁物だね。けどいつかレベルも上げて有名になってやるんだから!


 それからも私は2人から戦闘の仕方を学んで何体かモンスターを倒し、順調にレベルを上げていった。

 気付けば時間が結構経っていて、次はダンジョンの探索をする事にして私たちは解散した。


「──ん、んんぅ! 楽しかったぁ」


 ログアウトしてVirtual Gearを外して、ベッドの上で体を思いきり伸ばす。A.W.O(アヲ)ではあんなに身軽に動けてたのに、現実の体が少し重く感じる事に少しの驚きと懐かしさがあった。やっぱり現実の体が一番だね。


「次はダンジョンの探索かぁ、楽しみだなぁ」


 それでも、早くあの世界に行きたいという自分もいる。

 思い通りに動かせる体に、モンスターの戦闘、ファンタジーな雰囲気に未知の冒険。なんだか心がドキドキして、とても待ち遠しい。次はいったい、どんなワクワクが私を待っているんだろう。そう思うと自然と体が興奮してきた。


「──Another.World.Onlineって、面白い!」

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