中二病少女現る
「おい、決闘しろよ」
俺はそう言いながらクリスタの部屋のドアを開けた。
「ビックリしたー。ノックぐらいしてよ。決闘するのはいいけど、アルスはレシピ変えた?
おじいさまから渡されたカードを効率よく使うには、専用構築をしないといけないよ」
クリスタはジェラルミンケースを取り出した。ダイヤルを回し、鍵を差した。中にはカードがぎっしり詰まっていた。それも全てFARST EDITIONのカードだ。現在のレートで300万マネーぐらいになる物だ。
「これは昔アルスと私が、決闘場荒らしをしていたときにアンティールールで勝ち取った商品だよ。アルスは勝ち取った物を一切利用しなかったからこれだけ残っているけど、元のデッキはアンティールールで持っていかれちゃったから当時の戦法は使えないけど、新たな戦法は産み出せるかも」
決闘は始まる前の事前準備から始まっている。例えば、デッキには相性がある。俺が使っていた隠密デッキは、キャラ破壊による戦力削ぎに特化したデッキだが、クリスタの使っていた狙撃デッキはキャラ破壊と連鎖しないアイテムを使うデッキで勝つのが非常に難しい。
デッキの相性が悪いとそもそも勝てないと言う問題点がある。
「姉さんが禁断の封印を破るとは、これは世界が滅びる前兆ですね」
気がついたら俺の従妹のテクノが俺の横で顔に手のひらを重ねて、珍妙なポーズをとっていた。
「テクノいらっしゃい。あんまり中二病は表に出さないほうがいいと思うよ」
「我が従僕に呪われし札を授けようとするとは面白いことをしてくれるのですね。我が従僕よ、札を受け継ぐ前に聖戦に臨むのです」
実は、テクノは決闘が強い。
テクノはSECOND EDITIONだけで連勝伝説 (本人はそう言っている)を作り出した生ける伝説らしい。実際はどうかは知らないが、俺はテクノが負けたところを見たことがない。
戦った相手は皆「俺はまだ、誰にも披露していないデッキを使って挑んだが手も足も出ずに敗北した。まるで、対策してきたかの戦法だった。それに、手札を当ててきやがったのだ。誰かがばらしているのかと最初は思った。しかし、それは違った。後ろには誰一人いなかった。手品や心理術とかそんなもので見破ったとかそんなちゃちなもんじゃねえ。まるで超能力で全てを知られていて奴の手の内で遊ばれているかのような恐怖感。ただそれだけが身に染みるように感じられた。それかや奴を見かける度に、悪寒がするようになってしまった」等と言っているようだ。
「我が従僕よ。聖戦をするなら部屋に来るがよい。小心者の達のように怖じけ付いて逃げ出さずに私を楽しませて貰おうかクックック」
テクノは笑いながら部屋を出ていった。
「テクノって口下手なのかな。中二病をやめて素直に言えばいいのにね」
「どう言うことだ?」
「今のを翻訳するなら、こうなるよ。
私の従兄の兄さん。私の部屋で一緒に決闘して欲しいです。みんな怖がって一回しか相手してくれなくて寂しいです。
こんなことも言いたかったと思うよ」
強すぎて誰も戦ってくれないとはずいぶん珍しい悩みだ。従妹の頼みぐらい聞いてあげないとな。
「ちょっと行ってくる。決闘は戻ってきたらやろう」
「テクノの戦法はちょっと変わってるから気をつけてね」
「ああ」
俺はテクノの部屋に向かった。