自由奔放
軽い運動程度のサイクリングを終え、帰宅する。
マンションの前の地下駐輪場にロードバイクをかくしてカギをかける。
カラダを軽くほぐしながら、エレベーターで自室のある階へと昇った。
目的の階に到着し、エレベータを降りると、ボクの部屋の前に小学生の女の子が座っていた。
その女の子には見覚えがある。
ボクの姉の子供、つまりボクにとっては姪にあたる子だ。
姉には似ず、かわいらしく頭も良い。
パステル紫色をしたランドセルと黄色い帽子でいまの時間、ということから考えると、学校帰りということだろう。
いつものように『帰りはおじちゃん家で遊んできなさい』と言われてきたのだろう。
この子の母である姉は、耳障りの良い言葉を選べば、『自由で奔放』だ。
子供を置き去りにして遊びに行くことなんてわけなくできる。
玄関前に置いてきぼりにされた姪に対し、不憫には思えたが同情はしない。
姉と同じくボクも『自由で奔放』な人間なのだ。
ボクはもう一度エレベーターへ乗り込んだ。
いつか見ようと思っていた洋画がいくつかある。消化するにはちょうどいい機会だ。
エレベーターのトビラを閉めて、ボタンを押した。
それから数時間が経過し、午後十一時を過ぎたころにボクはマンションへともどってきた。
自室の階でエレベーターを降りる。
玄関前に姪の姿はなかった。
そのかわりに、タコ型のエイリアンが立っていた。
頭足類・八腕目のシンプルな形で、体長はわからないが身長は一メートル程度。
パステル紫色をしたランドセルと黄色い帽子を身に着け、その足元には、さきほど姪が着ていた服も落ちている。
――まだ迎えに来てないのか……
エレベータを出て、共用廊下を歩き部屋へと向かう。
エイリアンがこちらの足音に気がつく。
そして手……と思われる触手をボクに向けて大きく振った。
近づき、帽子越しにエイリアンの頭をやさしくポンポンと叩き、玄関の扉を開けた。
部屋にはいるようにうながすと、エイリアンは素直に従う。
その動作がいつもよりも鈍かった。きっともう眠いのだろう。
玄関前に残った姪の服を回収し、ボクも部屋へとはいる。
居間のソファーでエイリアンはうつぶせに倒れていた。
待ちくたびれて力尽きたらしいエイリアンをタオルケットでくるむ。
抱えて寝室へと運び、ベッドへ優しくおろした。
灯りを常夜灯にし、トビラを少し開けたままボクは寝室を出た。
居間で着替えていると玄関のチャイムが鳴った。
のぞき穴から外を見ると警察の制服を着たエイリアンが立っていた。
話を聞くと、子供が外に立たされており虐待ではないか、という趣旨の通報があったらしい。
それからしばらくボクは面倒くさい言い訳をしなければならない。




