鑑定結果
「鑑定結果だけでも聞いていきませんか?」
まただ。
また他人に期待している。
他人が私を変えてくれるって、また期待している。
…わかってるはずなのに。
自分を変えられるのは自分自身だけだって。
わかってるはずなのに、なんでなんだろう。
この人ならって思ってしまう。
今まで何度も期待しては裏切られてきたのに。
ー私はドアノブにかけた手をそっと下ろした。
「どうぞお掛けください。それほどお時間はいただきません。」
占い師に促されるまま私は彫刻された不思議な椅子に座り直した。
「ではさっそく。ん〜まずは恋愛からみていきましょうかね。」
あれほど撫で回していた水晶玉には目もくれず、じっと私の目だけを見据えて話し始めた。
「うんうん、恋愛が絡んで今とても苦しい思いをされていますね。焦る気持ちはわかります。年頃の女性にとって恋は命に近い。ですが、命ではないのです。恋は恋。友情は友情。自分は自分。他人は他人。この当たり前ことが見えなくなりかけてはいませんか?他人のことは嫌なほどよく見えるのに自分のことはまるで見えない。そう、今、自分がどんな顔をしているのかさえ見えないのです。この水晶はそれを教えてくれます。」
水晶玉に軽く手を乗せた。
何も映らない水晶玉。それが教えてくれるもの?
占い師は軽く微笑みながら続けた。
「貴女があまりにもこの水晶玉を睨むので。この水晶にはここにあるだけの理由があるのです。また見えないことには見えないだけの理由があります。ま、それは今は置いておきましょう。兎にも角にも、今の貴女に必要なことは他人には貴女の顔が常に見えていることを知るのです。貴女が他人を見るとき他人は貴女を見ている。…おや?どこかで聞いたような台詞ですかね?」
おどける占い師に私は不意を突かれた。
え?占いって、運気がどうのとか、いつどんな色の服を着てどんなタイプの人とデートすればいいとか、そんなんじゃないの?
他人が私の顔を見てるって何よ?
戸惑う私に構わず占い師は
「今日の鑑定結果はいかがでしたでしょうか?この結果を活かしていただくためにも…こちらの水晶玉のご購入をオススメします〜。って霊感商法か⁉︎」となぞのボケツッコミを始めた。
私の白い目に自分の行いが映ったのか照れたように小さくひとつ咳払いをした。
「えっと…コホン。冗談はさておき、まずは鏡を持ち歩くことをオススメいたします。そしてこまめに自分の顔をご覧なさい。鏡ではなくとも己を映すものを見つめるのです。その時見えたものをよく覚えておくのですよ。それでは、2〜3日後にまたこちらへおこし下さい。本日は9分間鑑定いたしましたので残り21分間のアフターサービスがあります。追加料金なしのスペシャルサービスです。他店にはないではしょう?ふふふ。では、お待ちしておりますので。ご多幸をお祈りしております。」
こんな占い聞いたことないよ。
今の運気さえ分からないなんて。
でも…不思議とここに来る前よりも自分の足が少しだけ軽くなったような気がしていた。
私を映すあの不気味な目。
自分があの場にいたことを否が応でも感じさせられた。
ー私を映すもの、か。
私は道すがら雑貨屋に寄ろうと歩をすすめた。