勘違いしていませんか
「あなたここがどんな場所か、勘違いしていませんか?」
占い師はじっと私を見据えて言った。
なんなよ…この目。
占い師の目はまるであの不気味な置き物のように思えた。
「ここは、その、占いの館じゃないんですか?」
私はおずおずと応えた。
すると占い師はあのため息のような咳払いをした。
「ただの占いの館だと、そう思っていらっしゃったんですか?」
なんなのよ、この口ぶり…。
ただの占いの館じゃなかったら、なんなのよ。
思わず口をつぐむと占い師はさっきまでとうって変わって優しく微笑んだ。
「まぁ、ただの占いの館…なんですけどね。表向きは。」
−この時私は自分が大変なところに来てしまったことを確信した。
このままこんなところにいたら面倒くさいことに巻き込まれる。
巷で人気って聞いたから安心してたけど、これは駄目だ。何もかもが怪しすぎる。
もう早く帰ろう。
私はいそいそとドアノブに手を掛けた。
「それじゃ、またいつ「あなた、自分の人生を変えたくてここに来たんじゃないんですか?」
占い師はそっと、でも地から這うような声で言った。
「私には今すぐに貴女に恋人をつくることなどはできません。ですが、僭越ながら貴女の人生を変えることにお力添えすることはできるのです。」
思わずハッとした。
恋人が欲しいなんて言ってないのに。
人生を変えたいだなんて言ってないのに。
確かに占いに来るくらいだから何かに悩んでるのはバレてるんだろうけど、どうして内容まで?
占い師は続けた。
「私もぼったくりなどしたくありません。騙されたと思って鑑定結果だけでも聞いていきませんか?」
背中を一筋の汗が伝ったのがわかる。
ゴクリと唾を飲んだ。
どうしよう、帰った方がきっといい。いいに決まってる。
それなのに、私の足は根が生えたように動かなかった。