ラビリンス
「見えない…。…私の未来が見えない…‼︎」
下村 尚子16歳。
花も恥じらう素敵な女子高生!…のはずが気がつけば彼氏いない歴=年齢。
全く理解できない。
この私がなんで彼なしなのよ〜‼︎
最近なんてみんなの恋話についていけなくて、友達まで無くしそう。
私の青春…どうなっちゃうの?
いてもたってもいられなくって、泣きついた先がそう、この場所。
巷で当たり過ぎると評判の占いの館、その名も『ラビリンス』
紫がかった毒々しいピンクの光を放ついかにも怪しいその場所に私はいる。
「なんで⁉︎なんで私の未来は真っ白けっけなのよ〜⁉︎」
「ちょっと、待ちなさいよ。素人には見えないだけよ。」
いつまでたっても透明なまま何も映らない水晶玉に私の未来が否定されたような気がして私は思わず占い師に詰め寄った。
占い師はため息のような咳払いをすると姿勢を正してなんの変哲も無い水晶玉を仰々しく撫で回し始めた。
全く、あんなのドンキにでも売ってる紛い品に違い無い。
美紗子が勧めるから気になってはいたけど、こんなとこ…来なきゃよかったかなぁ。
私は目の前の水晶玉かのようなにぶい光を放つ目でそこかしこに並ぶ悪趣味な調度品を眺めた。
どこに売っているのか皆目見当がつかないような異形のものばかりが並んでいる。
なんなのよ、あの気持ち悪い銅像は!
ギョロリとした紅い目玉を持つ痩せこけた蝙蝠のような不思議な置き物が目に付いた。
何かこちらを見つめ返しているかのようで気味が悪かった。
私が不気味な置き物に気を取られていると占い師が
やおら声をかけてきた。
「その子、かわいいでしょう?」
どこがだ‼︎⁉︎
私は戸惑いと嫌悪が溢れ出るのを感じたけれどサッと笑顔を取り繕った。
「そ、そうですね…。」
嘘をつけない体質なりには頑張ったと思う。
ふと占い師の手元、水晶玉を見る。
さっきから何も変わらない。
ただの透明な水晶玉がそこにはあった。
いつまでも、何も変わらない。
私はスッと立ち上がってお辞儀をした。
「今日は、その、ありがとうございました。いつかまたご縁がありましたら、よろしくお願いしますね。」
変わらない、変えられない、勝手に変わる、取り残される。そんな現実が辛くてどうにかなりそうで、逃げ込んだこの場所。
私には今とは違う人生があって、そこに導いてくれるんじゃないかと期待していたのかな。
でもやっぱりね。
この世に逃げる場所なんてないんだ。
幼なじみの正直に言うと根暗でモテそうにない美紗子がここに行ってから人生が変わったなんていうから。
今まで私と一緒にいた美紗子があんなに変わったから。
でももうわかった。
ガラス玉なんぞに私の未来が映るわけがない。
誰かが私の人生を変えてくれるわけがない。
他人に期待するなんて、私らしくもない。
30分で3,000円の占いだなんて、女子高生のお財布には大打撃だったけどいい勉強になったかな。
鞄を取って外に出ようとすると今までろくにしゃべらなかった占い師が静かに言った。
「お客さん、何か勘違いされてませんか?」