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その後の二人

『浦島太郎と私』の直後の話

「ちょ、待て。え?」


 太郎の腕の中で泣き続ける私。

 太郎は竜宮城で数日滞在しただけでまさか数年も経っているとは思っていないので、何故私がここまで号泣しているのか分からないのであろう。

 しかし私が今説明しようとして声を出しても、声にならないと思われるので太郎にはもう少し混乱しといてもらう。


 何を言っても泣き続ける私に太郎は諦めたようだ。

 ふう、と溜息を吐きながら私の背をゆっくり撫でる。

「えっと……数日とはいえいきなりいなくなって悪かったよ。心配してくれたんだよな?」

 違うとは言わないけれど、正解ではない。

 私はもう会えないと思っていたのだから。

 それでも諦めきれなくて、歩いてきた。

 太郎がいない三年間。

 太郎にはもう会えないと自分に言い聞かせてきた三年間。

 それを、思い出して。

 また涙が溢れ出た。


 思う存分泣いて、落ち着いてきた。

 さて、もうそろそろ太郎に説明してあげよう。

 そう思って顔を上げ、太郎の腕の中から彼を見上げる。

「……落ち着いたか?」

「うん」

 かなりほっとしたようだ。

 そんな彼に現実を知らせる。

「あのね、太郎」

「なんだ?」

「太郎は三年も行方が知れなかったんだよ」

「……………………………は?」

「もう皆、太郎は死んだんだと思ってた」

「は!?ちょっと待て!三年!?」

「そう」

 太郎は固まった。

 そして意味が分からないと言わんばかりに頭を左右に振る。

「太郎、落ち着いて」

「落ち着けるか!?」

「はい、息吸ってー吐いてー」

 スーハー

 無理やり深呼吸させて、よく考えてみてと太郎に言う。

 私に言われたとおりに考え込む太郎。

 じっくり考える時間をあげればたぶん太郎は自力で答えにたどり着くことができる。

 地上と竜宮城では時の流れが違うのだと。


 ……ものすごい、ものすごい時間がかかったけれど自力で答えに辿りついたらしい。

 私は太郎の腕の中から出て、彼は頭を抱えてしゃがみこんでいた。

 さすがに心配になった私は声をかける。

「太郎、大丈夫?」

「……茜」

「ん?」

「ごめん!!」

「へ?」

 いきなり立ち上がって90度に頭を下げる太郎に私は首を傾げた。

 太郎は頭を下げたまま顔だけ上げて私を見る。

「だっていつも茜言ってたじゃないか。待ってるって」

「……あ」

「必ず帰るって俺もずっと言ってたのに…………ごめん」

 そう太郎は謝る。

 私は苦笑する。

 私はほとんど自分の為にそう言っていたようなものだ。

 そこまで痛い顔されたら、なんだかこちらの方が罪悪感を感じる。

 私は今限定で自分より低い場所にある太郎の頭を撫でる。

「いいよ。ちゃんと帰ってきてくれたから」

 帰ってきてくれたから。

 本当にそれだけで私は良い。

 太郎が帰ってきた。

 そのことをゆっくり噛み締めたら、先程まで思っていた責めてやろうという気がなくなってしまった。

「でも、いままでどうしてたの?というか、海から出てきたよね?」

 知っているが、私は本当は三年も竜宮城にいるはずの太郎が数日間しか滞在しなかった理由が気になった。それを聞くためにはまずそこから聞くしかないだろう。

 私が言った疑問に太郎は分かりやすくギクッとなった。

 そして視線をウロウロと彷徨わせた後、申し訳なさそうに私を見た。

「ごめん。それは言えないんだ。約束したから」

 ……ほう?

 その約束は乙姫様とでもしたのかな?

「ご、ごめんって!」

 滲み出た冷気を敏感に感じ取ったらしい。

 しかしそれでも言う気はないらしい。

 太郎の目には私に何を言われても受け止める覚悟が見て取れた。

 太郎はした約束は必ず守る。

 それは幼いころから知っている。

「はあ」

 仕方がない。

 諦めるか。

 私も太郎に言えないことはたくさんある。(前世関係)

 実際太郎に聞かれて誤魔化してきたことは少なくない。

 自分は言わないどいて太郎には言わせるのは公平フェアじゃないだろう。

「……約束したなら仕方ないね」

「っ!!ありがとう、茜!」

「でも、何か考えておきなよ?三年も行方不明だったんだから、皆に何してたのかって聞かれるよ?」

「うげっ」

「私は助けませんから」

「え!?そんな!??」

「……ふふっ」

 どうしようと頭を抱える太郎に私は笑う。

 さて、と村の皆に太郎の帰還報告(むしろ生存報告)をしに行かなければ。

 そう太郎に背を向けて、彼を引っ張るように手を掴んで歩き出す。

 太郎はとぼとぼと歩く。

 どう説明するか悩んでいるのだろう。

 私が太郎の立場だったらものすごく困るしね。

 まあ、皆をあれだけ悲しませたんだからそれくらいは困らせればいい。

 私はほおっておくことにした。


「茜」

 私がそんなことを考えていたら太郎が私に呼びかけた。

「何?」

 振り返らずに聞く。

「さっき言ってたことだけど……」

 真剣な声色に私は少し驚いて耳を澄ます。

「三年間、俺が何をしてたのかは言えないけど……。ここに帰ってこれたのは茜のおかげだ」

 思わぬ言葉に息が止まる。

「茜が俺にいつも、いってらっしゃい、無事に帰れ、待ってるって。そう、言ってくれたから俺はここに帰ってこれた。父さんや母さん、友人、そして茜がいるこの村に」


 ありがとう。


 そう太郎は言った。


 一筋、涙が流れた。

 ああ、私がしてきたことは無駄じゃなかった。

 私は何もしていなかったわけではなかった。


 良かった。

 良かった。良かった。良かった。


 夢のような楽園、竜宮城。

 それよりこの裕福とは言えない村を、私を選んでくれた。


 太郎の中で、私はそれだけ大切な者なんだ。


 そう思っても、自惚れではないはずだ。


 私は振り返った。

 そして太郎を見る。


「どういたしまして!!」


 太郎こそ、こちらを選んで、帰ってきてくれて。

 ありがとう。


 そんな思いを込めて。

 私は笑った。


ありがとうございました。

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