表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
罪と咎(つみととが)  作者: マオ
12/12

エピローグ

 彼女が深々と息をつき、話は終わった。半日ほどを費やした、長い話だった。

 それでもまだ、訊きたいことはたくさんあった。

『それからの姉弟』の話を知りたかった。

 どうしたのだろう、それから。

 今でも生きているのか?

 竜巻に閉ざされた都の中で?

 魔神の力をその身に宿して……ずっと?

 私の疑問に、彼女はとても嬉しそうに笑った。

「それからお二人はどうなったかって? ……ふふ」

 幸せそうだった。

「もう少ししたら、あたしを迎えに来てくださるんだよ。サリュに乗って(・・・・・・・)ね」

 ほんとうに……至福だというように、笑っていた。

「あたしは天に召されるのではなく、永遠にお二人にお仕えするのさ」

 そういう彼女の手には、鮮やかな白い花がある。話の間もずっと、彼女はその花を片時も離さなかった。

 長くいろんなところを旅した私にも見たこともない品種だ。これがさっき話に出てきた『約束の証』の花なのだろうか。百年以上も枯れない花など存在するのか。確かめる術などないのだが、何故だろう?

 私はその時、うらやましいと思ったのだ。ほんとうかどうかも分からない、彼女の幸せそうな言葉を。

 ――彼女は私を見て、今度は楽しそうに笑って言った。

「サンディーノの腐った過去を伝え続ける役目はあんたに譲るよ、学者さん。あんたなら、ごまかさずに必ずやりとげてくれるだろうから」

 そうしたら、逢えますか。私は真剣に尋ねた。

 あなたの後を継いだら、その姉弟にあえますか、と。

「……さあね。あたしにゃなんとも言えないよ。けれどあんたが――伝え続けてくれたなら……」


 いつかお会いしてくれるかもしれない。


 彼女はそう言ってから、疲れたよ、と呟いた。

 私は丁寧に礼を述べて、その日は退出した。



              ***


 ――数日が過ぎて、私は手記を書いている。

 伝え続けるために。今や私が最後の語り部なのだから。

 ……老女シェリは、私が話を聞いた翌日の夜、息を引き取った。

 死因は老衰。当然だ、彼女は百歳を越えていた。

 いや、気にするべきことはそこではない。

 彼女が亡くなった夜、砂竜が町の上を飛んでいたという。

 絶滅したはずの砂竜……もしかしたらその上には人影がふたつあったのではないだろうか?

 もしかしたら、それは。

 ……いや、きっと思い過ごしだろう。確かめる(すべ)などどこにもない。

 だが――いつか。

 私は思う。

 いつか行ってみたいものだ、と。

 失われた都、サンディーノへ。

 魔神の力を得た、美しい姉弟に逢えるのならば。


これにて「罪と咎」は終了です。砂の都の彼女と彼は、永遠にそこにあり続けます。それを望んだ二人ですから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ