おみやげ。
エインは白い軍服のような制服に身を包んでいた。
私の視線に気がついたのか、エインはこっちの方に顔を向けた。
「記憶はまだ何もないんだろ?今日 俺は記憶の一つを届けに来たんだ。」
今まで変わらない笑顔だった花織の顔が一気に変わった。
「記憶?へぇ…。」
そう言ってまたいつもの顔に戻った。
エインは真剣な顔つきになった。
「俺が持ってきた記憶は、おそらく一番辛い記憶だ。だからまだ見ない方がいいかもしれない。」
(一番辛かったかもしれない記憶……。)
私が悩んでいると、エインは優しくわらった。
「すぐ見なくてもいいんだぞ。ウェスタが、真王を目の前で失った時の記憶だからな。まあ、俺はその時はもう生きてなかったから状況はわからないが。」
そう言って頭をかく。
「俺たちは、この記憶を覗くことができないんだ。これは記憶の持ち主でないと見ることができない。」
「でも、私はウェスタではないわ。」
「お前自身がウェスタではなくとも魂がウェスタと同じなんだ。
記憶は魂でもある、記憶をなくしてしまえば魂は壊れてしまう。」
魂が一緒。
そしてたどる道も一緒。
なんて皮肉なのかしら。
「とりあえず立ち話もなんですから、お部屋へ行きましょう。」
ユリウスはエインに提案し歩き出した。
部屋の椅子に腰掛けるとエインが口を開いた。
「『もう繰り返したくはない。
何度 僕は彼を失えばいいんだろうか。
この悲劇は運命へ変わろうとしている。そして、繰り返してしまうと運命は、決して変えることのできない必然へと変化する。
ねぇ、僕の傲慢が生んだ悲劇なのだろうか。
彼のそばにいることを望んだ僕への罰なのだろうか。
いや違うね、そばにいるだけでは飽き足らず、彼が欲しいと思ったからか。』
彼女、いやウェスタはそう言ってよく嘆いていた。」
エインは悲しそうに言い、ユリウスもアルムも悲しそうな顔だった。
「その記憶を見れば何かが変わるの?」
「抜け出す道を見付け出すことができるかもしれない。」
愛しい人を失った悲しみ。
何度も繰り返し起こる悲劇。
「見るよ。繰り返してはいけないはずだもの。」
ユリウスは苦しそうな顔だった。
いや、ユリウスだけではない 。
エインもアルムもだった。
エインが手渡したのは鉱物だった。
「フォシスだ、法石ともいう。ウェスタ専用のものだが、お前が見たいと思うなら記憶が流れ込むだろう。」
手のフォシスに意識を集中する。
そうすると、ほのかに光が灯り、一気に輝き出した。
私はその輝きに目が眩んだ。




