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五つ精霊の石シリーズ

南国の魔法ー大晦日すぺしゃるー

作者: ありま氷炎

「南国の魔法」シリーズを読破しないとわからない短編です。

ユキコとシンスケの場合


「ねえ。松山くん、本当にお邪魔してもいいの?」

「ああ、もちろん。そのほうが親も喜ぶし」

「え?」

シンスケの言葉にユキコは戸惑った顔をした。

「ごめん、気が早いよな。まだ俺達付き合って1週間しか経ってないのに」

「…私はいつでもいいんだけどな」

「何?」

ユキコの言葉に今度はシンスケが戸惑った顔をする。

「ううん、なんでもない。今日はお邪魔させてもらうね。紅白なんて久々だわ。」

「本当は外で一緒に初日の出とか見たかったんじゃないか?」

「ううん、実は人が多いの苦手だし。家でのんびりコタツに入って過ごすのが好きなの」

「よかった!」

シンスケは嬉しそうに笑うとユキコを抱きしめ、軽くキスをした。

一瞬だったので、周りに人々には気づかれなかったようだ。

ユキコは真っ赤になってうつむいている。

「ごめん。さ、車に乗って。俺の実家に行く前にちょっと買い物したいし」

「うん」

シンスケの腕から開放されたユキコは助手席に乗り込んだ。

雪がちらちらを降っている。


どうやら今年は雪と共に年を越すことになりそうだった。


シンスケはユキコに笑いかけると車を走らせた。

雪の中、赤い車が走り抜けて行く。

車の中の二人は楽しそうな笑顔を浮かべている


今年はつらいことがあった。

でも二人にとって新しい恋を見つけたことが幸せだった。




ケンジとユリの場合


「ちょっとケンジ。やっぱり来年は絶対に免許とってよね」

人で溢れかえる電車の中でユリはそう言った。ケンジはユリを守るように電車の壁に手をついている。

「うーん。わかった。でも時間かかるかも。僕、なんかそういう乗り物系苦手なんだよね。自転車も乗れないし」

「え?本当??」

ケンジの言葉にユリはその大きな目を見開いた。

自転車乗れないという人物をユリは見たことがなかった。

「あ、でも僕がんばるからさ。ユリのために」

ケンジはユリに笑顔を向けてそう言った。ユリはその笑顔でどきどきしてしまい真っ赤になった自分の顔を見られたくないのでうつむいた。

ああ、最近。私のほうがケンジを好きみたいだわ。

「あ、ほら。見えてきた。」

ケンジの声でユリは顔を上げた。

初日の出を見るために二人は電車に乗って移動していた。

「晴れてるわね」

「うん。さあ。降りよう」

ケンジはユリに手を差し出した。ユリはうなずくとその手を掴み電車を降りる。

電車を乗ったときは雪がちらついていたが、降りたところでは雪は止んでいた。


いい初日の出が見れそうだった。


「まずは旅館に行って荷物預けようね」

ケンジは大きな荷物を背負いながらそう言った。


ここ半年でケンジは本当にたくましくなった。

ユリはそんなケンジがまぶしくて、どんどん好きになるのがわかった。


「ユリ、行くよ」

階段で降りようとしているケンジがぼーとしてるユリに声をかけた。

「待って!」

ユリはケンジの側に慌てて走り寄った。


二人の新しい年が来ようとしていた。

あの世界から帰ってきて、ケンジは自信をいうものを身に付け、ユリは信じられる人を見つけた。

あの世界での出来事を今では語ることも少なくなっていたが、二人にとってあの経験は忘れられないものだった。




タカオとカナエの場合


「なあ。ジュディ。大丈夫かな」

リビングルームで窓を見ながらカナエが心配そうにつぶやいた。

「大丈夫だよ。藤宮さんはあー見えてそこまでひどい人じゃないし」

ソファーから立ち上がり、カナエを後ろから抱きしめながらタカオはそう言った。

「だって、ジュディが好きなんだろう?」

「うん。そうみたいだ。信じられないけど」

カナエはジュディがノボルのことを好きになったと知って、驚きを隠せなかった。ジュディは遊び人が大嫌いだったからだ。

「どこがいいんだろう。あの人の」

ノボルのケルビンにも似たあの視線がカナエは苦手だった。

「上杉…。人のことはその辺にして。僕のことだけを考えて」

タカオはカナエの耳元でそう囁いた。その声だけでカナエは眩暈がしそうになった。

「ねえ。上杉。今夜はずっと君を抱いていてもいい?」

「…」

カナエはタカオの問いに答えず、振り返った。その顔が少し赤くなっていた。相変わらずカナエは照れ屋だった。

「いいけど…その前にシャワー浴びさせて」

カナエが消え入りそうな声でそう答えるとタカオはいたずらな笑みを浮かべてその口を塞いだ。

「だめ…今すぐ」

タカオはカナエの唇から唇を離すとその体を床に押し倒した。

「武田…!」

「だめ。今日は僕の好きなようにする」

タカオの言葉にカナエはため息をついた。

こういうときのタカオに何を言っても無駄だった。

床には温かめのカーペットが敷いてあった。今日敷いたばかりなのでタカオはこれを狙っていたということも考えられた。

「武田…」

カナエはぎゅっとタカオの体を抱きしめた。その柔らかな髪が肌に当たる。


10年…

10年間の思いだった。


タカオがずっと好きだった。

別れたことを後悔していた。



あの世界に行ったおかげでカナエは自分の気持ちに素直になれた。そしてタカオをもう一度この手に抱くことができた。


新しい年が来ようしている。

愛する人と迎える新しい年が…


ふいに花火が打ちあがる音がした。

顔をそっちに向けると明るい光が見えた。


年明けを祝う花火が打ちあがったようだった。


「上杉…」

タカオがカナエに口づける。

それは甘い、甘い、甘美な口づけだった。


「新しい年だね。君と迎えられて嬉しい」

タカオが床から体を起こして外を見た。カナエもタカオの側で体を起こす。

窓から美しい花火が見えた。

「私も武田と新年を迎えられて嬉しい」

カナエがそっと返事を返すとタカオは嬉しそうに笑った。そしてその体を再度押し倒す。

「まだ花火が…」

カナエの言葉はタカオの唇によって飲み込まれた。


窓から美しい花火が見える。

それは香港の美しい夜景に咲いて散る花のようだった。



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