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もう一度、魔王を討つまで  作者: 空崎恵
英雄の背を追って
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命は綿糸のように、また魔物の命もそれに等しく

絶対統領『タレスティア』

女帝バレシッサが独裁者として君臨する街である。

話によれば、この街よりも遥かに高い城壁を築いており、月に1度「暗黒の魔物」と呼ばれる脅威を排除するため遠征に向かう隊が存在するとされている。


「タレスティアは様々な種族が住む街であり、長い年月の間暗黒の魔物と対峙してきた街でもある。故に住民の管理や魔物の情報が多い。だから、タレスティアでは世界に存在する種族と、暗黒の魔物についての情報と書物を手に入れるつもりだ」


アレアトはそう話していた。アレアトの収集の趣味はそんな所まで及ぶのかと関心を抱いたのは秘密だ。

タレスティアに向かうためにまずは装備を揃えることにした。喜ばしいことにカイアスには冒険者なりたてほやほやの人の為の装備を売っている店が多くあった。とりあえず見かけた店にでも入って揃えるとしよう。


「らっしゃい。何をお望みだい?」


「防具一式と、細身の剣はあるか?エスパダ・ロペラのようなものがいい。防具は最低限魔物から攻撃を防げるもので大丈夫だ」


最低限ほしいものと条件を提示しておくことで、店主も分かりやすいだろう。思った通り、店主はすぐに防具と武器をもってきてくれた。


「できるだけ要望に忠実なものをもってきたつもりだ。防具は鉄製だから、魔物の攻撃には多少耐えられるだろう。武器ついてら...」


店主はそこまで言うと、武器を差し出した。それは俺が想像していたものより上等なレイピアだった。


「店にある中で唯一のものなんだが.....高くなるがいいかい?」


「あぁ、大丈夫だ」


柄に手をかけ、刀身を滑るように撫でる。なめらかな鋼が冷たくどこか心地が良い。

装備や食料を買うための通貨は、故郷からたんまり持ってきた。師匠が何故か何故か大量のお金をもっており、その半分を冒険に出る際にもたされたのである。


「ありがとうな、店主」


必要な額ピッタリのコインを袋につめ、手渡した。店主は手を振って「いい冒険を!」を言っていた。これで武器と防具が買えたことだし、拠点へ戻ろうとした時ー


魔物襲来を知らせる鐘の音が街を駆け巡った。



「こんな街にまで魔物がくるなんて...!!」

「早く逃げろ、暗黒に飲み込まれたもう帰れないぞ!!」

「あぁ、ついに魔王はこんなところにまで....」

「ほら、早く逃げるよ!」

人々が様々なことをつぶやき、叫びながらじたばたと手足を動かし逃げていく。

まるで波のように一方方向へ逃げていく中、その波をかき分けて逆走する人の姿があった。

アレアト達だ


「鐘の音が聞こえた。魔物の姿はどこに?」


「まだ現れてない。けれど、もう街の目の前まで来ているということには変わりない」


それぞれが武器を手に持ち、魔物が街へ踏み入れる瞬間を待つ。

アレアトはロングソードを、

アレーティアは僧侶兼魔術師らしく杖を、


「魔術で撃退するし、何かあった時は鈍器として使うわ。叩きのめせば、なんとかなるでしょ」


と、杖を上下に振りながら笑顔で語る。

そしてネモも来ていた。正直、来なくても「そっか」としか思わなかったため、意外だった。

そしてもうひとつ意外なことが。ネモは自身の身長よりも長いであろう大剣を持っていた。そんな細身でスタイリッシュな身体で大剣を振り回すとは頭に思い浮かぶことすらない。いや、面白がって想像するという可能性はなくもないが。

俺も先程装備屋で買った防具を身体に纏うように憑依させ、レイピアを手にする。

全員が臨戦状態の中、ついに魔物が姿を現す。汚泥のような身体をしたやつらは、空白の街並みを見渡し、そして俺たちを見つける。唸り声・金切り声を上げ、そして城門を超える。


その瞬間、1本の光線が魔物の頭を貫いた。魔物の身体は氷が溶けるかのように消えていく。そしてそれは戦闘開始の狼煙となった。


「後方支援は任せなさい!何かあったら下がってきて!!」


「頼んだ、アレーティア。いくぞ!!!」


流れ星のように光線が駆け抜ける中を、俺たちは走る。狙うは首。頭と胴をさよならさせる。アレーティアに続く一撃を放ったのは、アレアトだった。光沢の煌めくロングソードは魔物の醜い身体さえ美しく切り裂いていく。

その後ろ、ネモの攻撃が猛威を振るう。その大剣から放たれる一撃は、近づけばだれでも死を連想するようなものだった。太陽がコロナを放つように、ネモを中心として巨大な大円が描かれる。


「俺も負けてられないな...!」


細い柄を握りしめ、魔物へと突撃する。魔物もまた、好機と言わんばかりに腕と一体化した刃物をふりあげる。だが、もう既に遅い。俺は光のような速度で魔物の中を駆け巡る。針が布の中を素早く縫い、そしてその糸を勢いよく引き抜くように。魔物の命は綿糸のように脆く、そして崩れ落ちる。



美しいと感じた。後方支援をしているからこそ、前線がどんな戦いをしているか見ることができるけれど、今の攻撃はもっと近くで見たいという激情を抱いてしまうほどに。


「なんなの....あれ.......」


言葉が途切れる。目を見開く。空いた口は塞がることなく、けれど心臓は強く鼓動する。心を奪われる。あんな攻撃、見たことない.....。



首元を撫でるかのように刃をいれる。鋭い刃で撫でるだけで、糸は簡単に切れてしまう。命も同じものだ。軽く傷つけるだけで、死に至らしめることもできる。不意に頭の中を懐かしき声が反響する。


『戦い方は、優雅であればあるほど美しいものだ。お前もそう思わないか?咆哮をあげ、けたたましく戦うのもいいが、静かに、そして美しく戦うこともまたいいだろ?』


『確かにそうだけど...。そんな戦い方、強者にしか許されないものなんじゃないのか?』


『それなら、強者になればいい!!オレが教えてやろう!オレが見てきた戦い方。その全てを』


俺が慕った人、戦い方を教えてくれた師匠の言葉。

何年経ったとしても、色褪せることのない記憶。


次第に、手に伝わる重い感覚が消えていく。それで気づく。

剣を振ることをやめる。裁ち鋏が布を滑る音が消え去る。閉じていた目を、静かに開ける。

もう、周りに魔物などおらず。

ただ、興味深い目で見つめてくる仲間の姿だけがあった。


魔物がようやく現れました!やった!!

小話ですが、アレーティアさんはあんな物騒なことを言っていましたが、本当にやったことがあったそうです。その時に何とかなったため、あんな考えが定着しました。経験は時に恐ろしい...。

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