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始まりの街へ

晴れわたった青空に手を伸ばす。雲なんて捕まえられそうにはないのに、どこかいけそうと思ってしまう。

身体を預けている荷台が道の凹凸に沿ってガタガタ揺れる。どこか痛く、どこか心地いい感覚である。

だが、そんかものでは抑えるとこの出来ない感情が溢れてくる。それは.....


「......暇だ」



草原が広がる丘の上、城壁に囲まれた街が見えてくる。ここら辺に魔獣なんて見たあらないのに、立派なもんだと感心を抱く。

中央大陸の巨大な城下町には劣るが、それでもこの辺りでは1番おおきな街だろう。

大陸の南東側に位置する街『カイアス』

冒険者を目指し、勇者を目指す人々が集まる街である。そんなところにいく自分もまた、もちろん冒険者志望だ。

別に故郷に近い街から冒険者になるのも悪くなかったが、なによりここは魔王を倒したとされる勇者が冒険を始めた街である。ここから冒険を始めるのは、冒険者達の一種の理想である。

城門前までつくと、城壁の大きさがより1層身に染みるものである。


「俺はここから、冒険を始めるんだ...!!」


心を奮い立たせ、堂々と城壁をくぐる。だがそんな者などお構いなしに、武器屋から剣が吹っ飛んできた。

(おそらく試し斬りをしていたのであろうと、目を覚ました後に思考はそう結論づけた)



「あっはっはっはっは!!初日から災難だねぇ。剣が手の前に飛んできた?どんだけ運がいいんだか。はっはっはっ!!」


城門近くのバーの女店主はそう大笑いをかます。

そもそも一部始終をガッツリ見ていただろうと膨れながら、出された水を一気飲みする。心拍バクバクの身体には染み渡る冷たさがあった。


「それにしても、この街は本当に冒険者が集まるんだねぇ。勇者様がここから旅立ったってだけなのに」


追加の水をコップに注ぎながら、店主は呟く。

この街の住民からしたら、街の物珍しいところはそれだけである。勇者が旅立ったということ以外、なんの変哲もない街である。


「それだけで十分なんだよ。危険の付きまとう冒険に出るんだ。ひとつくらい理想を叶えておくってのもいいだろ?」


でも、これが冒険者達の本音である。いつ死ぬかも分からない冒険に足を突っ込む者達だって、何も成し遂げられないまま未練タラタラのまま死ぬことはできない。それなら、ひとつくらい理想を叶えてから冒険に出るのも1つの手だろう。


「まぁ、あたしもいろんな冒険者を見送ってきた身だ。あんたも、いい冒険者になるんだよ」


頭をぽんぽんと叩き、店主は他の客に注文を届けに行く。ふと注がれた水を覗き込み、鏡のように写った自分を見つめる

ー自分はどんな冒険者になるのだろう。そもそも、なにも目標がないまま冒険者になりたくて家を出た訳ではない。魔王を倒し、この世界に平和をもたらす。極々ありふれた理由ではあるが、その意志は誰よりも強いと胸を張って言える。けれど、もし......

そこで考えることをやめ、さらに水を一気飲みする。始まってさえいないのに、終わりを考えてどうする。


「店主さん、水ありがとう!」


そう言って俺は店を後にした。



街にはバーみたいな飲食ができる店以外にも武器や防具、意外に大事な救急セットみたいなのを売っている店がちらほらある。いろんな店を一瞥しながら、俺は歩みを進めていく。視線の先に、少しづつ目的の場所が姿をあらわしてくる。ひょっこりではないが。

周りから聞こえてくる人々の声に、少しづつ楽器の音、地面を一定のステップで刻む音が加わる。その音の均衡が取れた瞬間、目的の場所に着いたことを認識した。


この街の中心、人々が踊り、歌い、時には金稼ぎをする場所、ずばり「広場」だ。

大剣を持った大男がめいいっぱい武器を振ろうとも、なんの問題もないほどの大きさがありそうだ。そんな広場の中心には、立派な像が佇んでいる。


「これが、この街の勇者の像....」

好奇心がくすぐられるような気持ちを抱く。巨大な大剣を掲げ、堂々と前を見据える。もしも魂を宿すことができたならば、と考えてしまうほどに精巧に作られている。

勇者が魔王を倒した後、様々な街で勇者の像が作られたという。街によって姿勢や姿は違えど、どれも堂々としているものなのだろう。

そう思いながら、絶世の美女でも見つけたかのように像に釘付けになっていると、ふと一際目立つ声が聞こえる。


「誰か、オレたちと冒険にいかないか!!」


なるほどパーティ募集の声だったか。

冒険にもいろんなやり方があるだろう。俺最強なんでと一人で冒険する者もいれば、助け合いこそこの世の真理と解きながら、仲間と共に冒険なんかもアリだ。勇者は一人で魔王討伐までやってのけたといわれているが、じゃあみんなできるかと聞かれたら、十中八九

「できるかコノヤロー」と返ってくることがほとんどだろう。

そして同じ質問を俺にされたって、「できるとおもうかバカヤロー」と返す自信がある。ということで、ちょうどいいところにパーティ募集があったことに感謝しながら、声をかけることにした。


「このパーティに、俺みたいなやつが入ってもいいか?」


とりあえず腰を低く、万が一でも「俺が入ってるぜフハハハハ」なんて言って印象低くはしたくない。

それに、まだパーティ募集段階とはいえ、最低限の役職は揃っている。素晴らしい。いたら難易度下がります代表の僧侶であろう人がいる時点で当たりだ。


「良いのか?!それじゃ、よろしくな!!」


リーダーからの返事は「OK」。つまり、晴れてこのパーティのメンバーになれたということだ。いやはやここまで順調に来れてしまうとは。幸運の女神が俺に恋でもしたかのようだ。


「早速なんだが、近くの森の中にオレたちの拠点があるんだ。そこまで案内するよ」


そう言ってこのパーティのリーダーであろう者が近くの森へ行こうとするので、じゃあ案内よろしくとついて行こうとして、ふと足をとめる。

パーティの一人であろう者が、動かないのである。厳密には、勇者の像に釘付け状態である。パーティに声をかける前から、こいつはなんか謎だなと思っていたこともあり、やっぱりミステリアス系か?と思考が考察をはじめだす。なんたってフードを深々と被っている。これはもう実は指名手配されちゃってますとかまではいかなくとも、なにかあるなと思わざるを得ない。でもそんなことは置いといて一旦声をかけることにした。


「なぁ、行かないのか?」


結果から言おう、無反応だ。試しにフードの中を覗いてみると、目がもう像しか捉えていない。ちなみに覗いた感想を言っておくと、美しい顔立ちだ。


「おーい、きこえているかー?」


試しにもう一度。そしたら今度は返事が返ってきた。本人は「あ....」と小さく声を漏らしてこちらを向いた。


「拠点に行かないのか?」


予言しよう。このミステリアス系の青年からは、言葉は返ってこれど、この問いの応えはかえってこないと。


「この像、立派に彫られているけれど、虚偽だらけ。まるで.....」


ほら、予言した通りだろ?それにしても予想の斜め上てっぺんをいく言葉がかえってきたなと感じる。像に虚偽?なんの虚偽というのだ?これぞ伝承に伝わる勇者そのものだというのに。

どこか不満の表情をなんとか顔に出さないよう堪えながら、その場を後にする。


ふと、不意に振り返ると、青年の頬を輝く涙が流れていた。

本屋にいって、本を探すために店員さんを見つけ、本を持ってくるので待っていてくださいと言われて、周りを見渡したらBL本に囲まれていました。その日初めてBL本と巡り会いました。恐ろしや。


まだ心躍る展開も、汗水握る展開もありませんが、ゆっくり進めていくつもりです。もちろんそんな展開を入れたい。入れてみせる。

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