煽り運転する理由
朝気がついたら無人トラックのAIになっていた。
ただ死んだ時にはまだ無人トラックの運用は始まっていなかったから、死んでから数年経っているのだと思う。
でもなんで無人トラックなんだ?
轢き逃げされて殺された僕が無人トラックになるなんて、って先ほどまで思ってた。
と言うのは、今しがた高速道路の走行車線を走っている僕を追い抜いた乗用車の運転手が、僕を轢いた犯人だったからだ。
今でも鮮明に覚えている。
前世で人間だった僕は健康の為に夜ランニングを行なっていた。
あの日、押しボタン式の横断歩道を青信号の時渡っていたのに轢かれる。
僕を轢いた後、犯人は車から降りてきて仰向けに倒れている僕の顔を覗き込んだけど、声を掛ける事も無く周りを見渡してから車に戻りそのまま走り去った。
犯人が僕の顔を見たように僕もアイツの顔を確りと記憶したんだ。
追い抜いた乗用車の運転手は僕を轢いた時より頭髪が少し後退していたけど、顔は記憶している犯人の物そのものだった。
だから僕はトラックのスピードを上げ乗用車の直ぐ後ろにピッタリと張り付き、煽る。
乗用車にはアイツ以外にアイツと同年代の女と、アイツに似た顔の年配の男が乗っていたけど構わない。
車間距離をドンドン狭め、乗用車のリアにトラックのフロントバンパーをゴンゴンと当てる。
乗用車はスピードを上げ離れようとしたけど、逃さない。
僕もそれに合わせてスピードを上げた。
助手席の女と後部座席の年配の男が此方を見ながら、泣いたり叫んだり喚いたりしているのが見える。
でも前世の借りを返す事だけに頭がいっぱいの僕にはどうでもよい事。
前方にサービスエリアと走行車線を分ける分離帯が見えて来た。
だから僕はスピードを目一杯上げて乗用車を押し、分離帯に乗用車もろとも激突する。
分離帯とトラックに挟まれて乗用車はペッチャンコになり、トラックの運転室部分はメチャクチャに潰れた。
漏れ出た燃料が引火、乗用車とトラックが火に包まれる。
火に包まれながら僕は、AIの機能が停止するまで笑い続けていた。
ハハハハハハハハ……




