洛中
盆踊りの練習を終えて、七条大橋へ向かう。
汗が引く前の空気は重く、白い日傘の下にこもった熱がじっとりと首筋を濡らす。
それでも、こうして外を歩く理由があるだけ、まだ幸せだ。
正面大橋の手前で、向こうから二人連れがやってきた。
男は、見間違えようもない。
カンカン帽の、あの人。
笑顔のまま、軽く「よっ!」と声をかけてくる。
隣の女——
涼しい顔で、こちらを値踏みするように見た。
あれは私を見極めてやろう、という顔だ。
敵意に反応し、胸の奥がきゅっと縮む。
「婆さん」に見えるだろう、そうだろう。
「狂女」に見えるだろう、左様でございます。
ええ、あなたの目には、もう使い道のない古い器に映るでしょうとも。
しかし——この街で誰よりも長く、桜の花が散る速さも、
祇園囃子が夜風に溶ける温度も、
秋の川霧が橋を飲み込む瞬間も、
冬の朝の石畳がきしむ音も、
すべて、この眼で見届けてきた。
若さと軽さは、川面の波のように気まぐれにきらめき、
気づけば泡のように消える。
私は、その泡の一つひとつが消えるたびに、
名前を知り、顔を知り、
もう二度と戻らない声や匂いを胸に沈めてきた。
だから何だ、と言われれば、何もない。
けれど、それを積み重ねた私を、
ただ「婆さん」と呼ぶなら、
それはあまりにも浅い見立てだ——そう思う。
だが、この街で誰よりも長く季節を見届けてきたのは私だ。
二人とすれ違い、日傘の影を少しだけ濃くして歩みを速める。
ふと視線の先、川沿いの草むらに、髪の長い女子高生が立っていた。
西空を、ただじっと見上げている。
——孫娘だ。
胸の奥がざわつく。
あの子の眼差しの奥に、私の中の古い恨みが見えた。
置き去りにされたような悔しさ。
誰かを羨むときのひりつくような痛み——
ああ、やっぱり遺ってしまったのだ。
あの娘には見えている。
私は日傘を握る手に力を込めた。
草むらの向こう、川面が赤く揺れている。
どうかあの子が、私のようにならないように。
そう祈りながらも、
並行して、ついさっきの消せない嫉妬がまだ燻っていた。




