ねねの道、午後三時
町家オフィスの午後三時。
銀杏の影が石畳に斜めに落ちる頃になると、なんとも言えん“間”がやってくる。
電話も鳴らん、外の観光客の声もひと息ついて、ちょっとええ感じになるんよ。
そういう時間に、若い子がExcelトラブルって感じになると、「はい来た」と心の中で正座する。
おはなしの“ご縁”や。
「いやぁ、Excelって“間”やね」
とりあえずそう言ってみた、ちょっと洒落た言い方。
空気が和んだ気がする。
うまくいかないのか、モニターとにらめっこ。
まじめな娘や。
「君は“長女タイプ”やな」って言ったら、きょとんとしとった。
でもそのあと、小さく笑った。
照れ笑いかね。
俺はね、「職場の気のいいオジサン」でええと思ってるんよ。
昔みたいにガミガミ言う時代やない。
ギラギラも性に合わん。
和やかに、でもちゃんと芯はあって、ちょっと京都らしさを添えて。
自分の若い頃を思い出すと。
あの頃、「気の利いた上司」ってあんまりおらんかった。
だから今の若い子らには、少しでも職場が居心地よくあってほしいんよね。
「お、今日もよう喋れたな〜」って思えるだけで、おとうさん嬉しいんや。
若い人とちゃんと目線を合わせて、雑談して、笑ってもらえる。
そのこと自体が、今の時代において「人と人」なんよ。
だって、社会ってのは“会話”やん。
話すことでしか、相手の性格って見えてこんのよ。
Excelの操作ミスにも、その人の“性格”が出る。
Enterを押す前に一瞬ためらう、あの指先――ああいうの、ちゃんと見てる。
だからサッとフォローできる。
つまずいてるのを「直してあげる」んやなくて、
「いっしょに考える」ってことに意味があるんや。
“教える”って、上からやない。隣に座ることなんやと思う。
若い人に「学んでもらう」って気持ちじゃなくて、
自分も「学ばせてもらってる」って思っとる。
せやからこそ、ええ関係が築けるんよな。
育児みたいなもんや。
人はみんな、ちょっとだけ居場所を探してる。
その“ちょっと”の居心地を、職場で作れるかどうか。
それが“上の人間”の器量やないやろか?
……とか言うと、なんか気取ってるみたいやな。
でもほんま、俺は「娘みたいな子」と働ける毎日がありがたい思うんよ。




