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エキスポ
うだる暑さに耐えきれず、
御前通から一筋入った角打ちの酒屋に滑り込んだ。
昼をまわってもまだセミが狂ったように鳴いている。
とにかく冷たいものを胃に入れたかった。
ショーケースの前にしゃがみ込み、
ちくわの磯辺揚げと、ポテサラをカウンターへ。
そして、黄金色に光る焼酎ハイボールの缶。
ラベルの「8%」の文字が頼もしい。
カウンターでひと口流し込んだ瞬間、
喉が焼け、汗が引く。
この瞬間だけ、世の中の全部を忘れられる。
……と、突然、外から奇声が響いた。
「あゃああああああっ!」
反射的に体がびくついた。
町家づくりの軒先から覗くと、
じいさんが、七条通を叫びながら横断していた。
上半身裸、左手にはビニール袋、
右手はなぜか空をかいていた。
車は停まり、誰もクラクションを鳴らさない。
まるでそういう“行事”か何かのように。
酒屋の親父が缶を補充しながら言った。
顔色ひとつ変えずに。
「あんなんでも、轢いたらおおごとや」
俺は愛想笑いをして、6Pチーズを指さした。
「それもひとつ、もらうわ」
本当は怖かった。
叫んでるじいさんが怖いわけじゃない。
誰も驚かない、この街が怖かった。
暑さは、まだ終わりそうにない。




