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昼のみできマス
ママが店を閉めた。
理由はよく知らないけど、どうやら大家ともめたらしい。
それを聞いたのは、シャッターに貼られた張り紙じゃなく、
隣の立ち飲み屋の常連の噂話だった。
「急だったなあ」
「しかたないよ、あそこも家賃高かったろ」
他人事のように笑う声。
俺は笑えなかった。
週末になると、あのカウンターに並んで、
ママの押し寿司つまみながら、どうでもいい話をして、
濃すぎるハイボールで時間を溶かすのが、
俺にとっての週末だった。
週末だけの顔見知り。
名乗り合ったこともないのに、グラスが空けば誰かが気づいてくれた。
そんな連中も、店が閉まったとたん、
どこかへ消えていった。
どうやら——
本当に、ここにしか行き場所がなかったのは、
俺だけだったらしい。
ふと、別れた妻のことを思い出した。
連絡先ももう残っていない。
でも、たぶん、今の俺よりはずっとましな暮らしをしてるだろう。
それでも、あの頃の、
小さな灯りのともる部屋が懐かしくてたまらない。
ママの手書きの看板は、どこへいってしまったんだろう。
あれが灯っていない七条の夜は、
なんだかやけに寒い。




