鴨にネギ、俺にパン
朝には歌、夜には恋。
なまけものの人生、万歳。
昔聴いた、俺の好きな歌。
ギターの弦を鳴らせば、
鴨川の流れも俺に合わせてくれる。
天神市で買ったズボン。
紺色だったはずが、
膝はすっかり白く抜け、
裾は砂色のほつれが揺れている。
弘法市でもらったジャケットは、
裏地の糸がほぐれて、着るたびに歴史を纏う気分だ。
怨讐道中膝栗毛ってな気分さ。
靴はもう底が薄く、
それでも石畳の感触を拾えるから悪くない。
それに、この靴がなけりゃ、
リズムのとり方も忘れてしまいそうだ。
神宮丸太町――
橋の手前で、昔振られた女に出くわす。
目が合う。
何も言わず、紙袋を差し出された。
中にはパン。
SLOのバインミーだ、こりゃご機嫌だね。
パクチーの香りが、雨の匂いと混ざって漂う。
撒いた罪悪感が、昼飯になった。
ぽつり、ぽつ。
夕立が落ちてきた。
足早に歩いて、LIPTONの前で立ち止まる。
ショーウィンドウ越しに見える、
ティーカップを揺らす手の優雅さ。
店内からこぼれるスウィングが、
雨粒のリズムと混ざって、即興のジャムを始める。
女が不機嫌そうに、夕立を聴いていた。
あぁ、その感じがたまらない。
お前、いい女だぜ。
秋近し。
命みじかし恋せよ俺。
夜風は湿り、
街路樹の葉はわずかに黄色を帯びている。
河原町通を抜け、
鴨川沿いに戻る。
ネオンが水面に揺れて、
まるで鍵盤の光みたいだ。
ギターケースを開け、
一音、鳴らす。
街のざわめきも、
追悼のソナタも、
すべてがコードに溶けていく。
そうだ、
放浪はメロディ、
恋はアドリブ、
そして、鴨川は――
俺のステージだ。
朝には歌、夜には恋。
なまけものの人生、万歳。




