夕立
夏の夕立が好きだ。
どうしようもなくこもった、街の不要な熱を、
下水に、河川に、ビルの谷間に押し流していくから。
バスの車体が濡れたアスファルトを引っかき、
屋根に叩きつける雨音が、眠っていた「冷たさ」を起こす。
やがて雨があがると、鴨川の流れが冷えた静かな空気を東山から降ろしてくれる。
その風が好きだ。
熱に浮かされていたこの街の脳みそを、ひやっと撫でて、
「もういいよ」と言ってくれるみたいだから。
夕立があがると、みんな笑顔になる。
街の灯りが反射する舗道を、
浴衣の女の子も、ダボダボTシャツのイケメンも、
どこか弾けたような表情で歩いていく。
まるで、
「熱がひいて、楽しんでもいい」っていう許可証が空から発行されたみたいに。
私は、いわゆる“ぽっちゃり”だ。
笑われるほどじゃない。
でも、自分の写真を見ると、いつも思う。
“お前は、物語の外な”って。
こんな体で何を着ても滑稽だし、
手をつなぐ相手もいない。
街の“笑顔の群れ”に入るには、細い体が必要で、
それを持ってない私は、箱の中から眺めてる。
たまに思う。
どんな悲しみでもいい、誰かの死でもいい。
私の心に降り注いでほしい。
この醜い脂肪を、熱みたいに押し流してほしい。
そうすれば、
私だって笑えるかもしれない。
夕立が、また降ってくる。
ガラスに水玉が打ち付けられ、光をぼやかす。
私はレシートを握りしめて、外に出る。
傘は、差さない。
濡れているのか、泣いているのか、
わからない顔のままで、鴨川に向かう。
いつか私にも、許可証が降ってくることを願いながら。
私だって、あんなふうに笑いたいんだ。




