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銀輪の
自転車のカゴが、コンビニの袋でパンパンだ。
ローブの裾をタイヤに巻き込まないようにクリップで留めて、
ウィッグの前髪を浮かせながら、鴨川沿いを北へ向かう。
風が気持ちいい。
だけど顔が、ちょっと熱い。
汗じゃない。視線だ。
まぁまあ見られてる。
知ってるよ。
そりゃそうだ。
ママチャリに乗った銀髪ロングの“フリーレン”なんて、鴨川に似合うはずがない。
でも――これが、今の私の“鎧”なんだよ。
どうしようもない仕事。
愛想笑い。
既読無視。
浮かない化粧。
疲れた心に効くのは、大好きなフリーレンに“なること”だった。
彼女は、表情が薄い。
でも、人の死をちゃんと見る。
何百年も生きて、やっと“わかろうとする”。
そういうフリーレンに、どこかで憧れた。
私も、何かを捨てて、
新しい時間を始めたかったのかもしれない。
それが今日、この春の、
ママチャリに乗る日だった。
団栗橋のあたりで、
一人の女の人が、私を見て笑っていた。
泣きながら笑ってた。
何も言わずにすれ違ったけど、
なんかちょっと――あれは、うれしかった。
何かを解ってくれた気がしたから。
私はそのまま、北へ向かった。
目的地はない。
この世界がクソでも、
風だけは、ちゃんと私の体を包んでくれる。
春の鴨川は、今日も、静かにざわめいている。
さっきの女フェルンやらねーかな?




