晩餐
講義のない日は、京阪に乗って大阪まで出る。
あの雑多な街のざわめきが、時々私を呼ぶのだ。
特急が枚方市から京橋まで駅をとばす間に、別の人間になるような感覚がある。
汗と油煙の混じった風は、街のコンクリートを伝って私の肌にまとわりつく。
兎我野で出会う男たちは、どこか汚れている。
爪に染み付いた黒い垢、香水の上に重ねる煙草の残り香、耳の後ろの湿った体臭。
その汚れが、私には必要だった。
抱かれるたびに、ベッドのシーツのざらつきが背中に擦れ、首筋に流れ落ちる汗がくすぐったい。
痛みが少しずつ麻痺していく感覚が、安堵に似ていた。
その金でたらふく焼き肉を食べ、酒を飲む。
濃いタレと、おろしにんにくをたっぷり絡めたハラミが、網の上で音を立てる。
じりじりと焦げる香りが、飢えを刺激する。
口の端に脂が残り、舌で舐め取る。
灰皿に山積みになった吸い殻の向こうで、氷の溶ける音がしていた。
煙が目に染みるあの店の灯りの中で、私は少しだけ自由を感じている。
不揃いな蛍光灯が、油で黄ばんだ天井を薄く照らしている。
誰も私を見ない。誰も私に触れない。
帰りの電車。
窓の向こうに流れる夜景。
真夜中の街灯が、雨に濡れたアスファルトの上でぼやけている。
人影が一つ二つ、地面に染みのように落ちていた。
誰も知らない私。
誰も触れられない私。
若かろう、美しかろう、臭かろう。
これが私だ。
声に出さなくても、心の中で何度も繰り返す。
網膜に夜景がにじむ。
車両のガラスに映る自分の輪郭を見つめながら、じっと繰り返す。
これが私だ。




