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サンボール

朝五時の冷たい光は、どこの国でもだいたい同じだ。

だが、この街の朝には奇妙な沈黙がある。

水の匂いが強い。

夜の酔いと高瀬川の水が、混ざっている。

それが、嫌いじゃない。


一人の女の子が視界に入った。

包み紙を開く手の向こうに、

彼女はボードレールを広げていた。


ボードレール。

懐かしい。

だが、彼女は読んでいない。

読むフリすらしていない。

開いたまま、視線はページを通り抜け、どこかに遠く漂っていた。


それでよかった。

読んでいたら台無しだった。


なぜなら、彼女のその姿こそが、

この街の象徴のようだったからだ。

意味を読み取ることよりも、

姿そのものが詩だった。


髪には夜の湿りが残っていた。

口元には、何かを飲み下せなかった名残。

それでいて、どこか高貴な匂いがした。

地に足がついていないまま、

それでもバランスを取って立っている、

紙人形のような若さ。


私がその前に座っても、

彼女は動じなかった。

ちょっとだけ、気配を感じるように視線を揺らし、

それから何も言わなかった。


それでいい。

言葉はここでは邪魔だ。


私はコーヒーを一口飲む。

胃の奥が熱くなる。

たぶん、彼女には何も残らない。

私のことなんて、すぐに忘れる。


この街に住む理由がまたひとつ、増えた気がした。

こんな風景が、まだ落ちているから。

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