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デイウォーカー

木屋町の早朝は、いつも少しだけひどい。

まだ夜の匂いがかすかに残っているのに、

雑踏の生臭さが、それをどんどん押し流していく。


私は夜の端っこで働いている。

送り出すときは「ありがとうございました」と笑顔を貼って、

終電の逃げた背中に手を振る。

本音では、こっちが逃げたい気持ちのほうが大きいのに。


逃げるようにマクドに入る。

24時間の冷たい光。

酔いを冷まし、化粧を落とし、

目の下のクマと一緒に“さっきまでの自分”も拭う。


講義までは、まだ時間がある。

バッグからボードレールを出す。

読んではいない。

ただページを開いたまま、眺めている。

“他人から見た私”のためのポーズ。

知性と退廃と、現実逃避を混ぜたような、

とにかく“何か考えてそうな感じ”。


そんな私の前に、一人の外国人が座った。

金髪でも黒髪でもない、灰色のくせ毛。

年齢はわからない。

だけど、目だけが変わっていた。

何かをじっと、遠くから観察しているフクロウのような目。

少しだけ傷ついた目。

けれど、それをまるで隠す気のない目。


彼は何も言わずに、

トレイに乗ったホットコーヒーと、ソーセージマフィンを机に置いた。

私のボードレールをちらりと見て、

笑いもせず、何も言わない。


なぜか、その無言に救われた。

嘘を吐かなくていい朝。

会話も気遣いもない、ただの沈黙。


私は少しだけページをめくった。

詩の意味は、頭に入ってこなかったけれど、

その静けさだけは、胸に染みた。


彼が席を立ったとき、

私もやっとコーヒーに口をつけた。

ほんの少し、

目の奥が熱くなった。


朝の木屋町は、やっぱり少しだけ、ひどい。

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