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疎水ガール

退屈になると、疎水記念館に行く。

無料で静かで、空調がきいてて、

年寄りしか来ない。最高の場所だ。


私は、展示なんて見てない。

見てるのは、人。

おじさん。


一人で、難しい顔してパネルに見入ってる。

服に金がかかってるのに、指の先だけ古い。

そういう“気配”をまとった人間を、私はロックオンする。


ちょっとした“演出”があればいい。

パンフレットを取り落とすとか、

展示の前で「これって、どういう意味なんですか?」って首をかしげるとか。


ちょろい。ほんと、ちょろい。

気を引いたら、あとは流れるように進む。

タクシー代付きでただ飯。ただ酒。

名刺を出されたら、それが帰る合図。


私はきっと、相当変わり者なんだと思う。

でも、こんなふうにしか生きられない。


彼らの話は面白い。

堆積したヘドロのような人生のにおい。

それが私は、たまらなく好きだ。


私が欲しいのは、カネでもモノでもない。

ただ、あの“におい”を吸い込む時間。


帰り道、鴨川沿いを歩きながら、

私はいつも思う。


あの人たちは“得した”と思って帰ったんだろうか。

それとも“奪われた”と思ったんだろうか。


私は誰からも何も奪っていないつもりだ。

ただ、ほんの少しだけ、

生きてきた時間の染み出す声を聴かせてもらっただけ。


疎水の水は、今日もよどんでいる。

でも、何も動かないわけじゃない。

あそこには、地下に染みてく何かが、たしかにある。


たぶん私の心も、同じように濁っていて、

それがちょっとだけ、誇らしい。

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