黒木旦那の挨拶
皆さま、今夜はほんまに、いやあ、ええ夜ですなぁ。
ここは、わたしたちにとって、日々の疲れをほどき、心を預けられる大事な場所です。
その真ん中に座ってはるのが──言うまでもなく、ママ。
そのママさんが、めでたく還暦を迎えはった。これはわたしたちにとっても喜ばしいことでございます。
六十年という歳月は、決して短こうない。
春の花を見て、夏の暑さに耐え、秋の月に酔うて、冬の雪に震える──。
そうやって繰り返しを重ね、喜びも悲しみもようけ味わって、今のはんなりとした笑顔ができあがってきたんやと思います。
世間では“還暦”を一区切りや言う人もおります。
けど、わたしはそうは思いません。
六十は、むしろ始まり。
“第二の二十歳”やと、そう申し上げたい。
二十歳の若い衆は、まだ何者にもなってへんから自由。
六十のママさんは、もう何者にもなってきはったからこそ自由。
その自由は、軽やかで、しなやかで、そして豊か。
せやからこれからの毎日こそが、ほんまの青春やと思います。
それに──この歳になってはじめて出てくる可愛らしさ、あるんですわ。
若さの可愛いとはまた違う。
長年の経験をへて、しわの奥に優しさや強さが宿って、
ふっと笑うたときに、それが“はんなりとした可愛さ”になって花ひらく。
わたしたち常連のタコ助どもは、その笑みにどれほど救われてきたことか。
ほんま、ママさんには感謝の気持ちしか、でございます。
どうかこれからも、このお店が灯りを絶やさず、
ママさんの笑顔とともに、わたしたちがここで元気をもろて、また明日へと歩んでいけますように。
それでは皆さま、どうぞグラスをお取りください。
“第二の二十歳”を迎えはったママさんに、心からのお祝いと、これからのご健勝と繁盛を願いまして──
乾杯!




