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03『レジスタンス』

 俺がゾンビを片付けてから一週間が経過した。


 「片付けた」と言っても、完全に街から排除したのではない。ある程度外を歩いても問題ないように、外を徘徊するゾンビを処分しただけだ。だから時々はぐれたゾンビに遭遇することもあるし、隣家の二階には時々ゾンビの顔が見える。

 

 俺はこの一週間は特になにかするわけでもなく、隣家の予備バッテリーを使って家の電力を賄いながら料理し、トイレをして少しの筋トレをしてから寝ている。時にはドローンを使って熱反応カメラで周囲の偵察を行っているが、今や残っているゾンビで外を徘徊しているのは駅に近いところだ。


 「そろそろスーパーにでも行ってみるかなぁ。でも怖いなぁ、スーパーなんて巣窟の危険性があるじゃん」

 

 ドローンで見てみた際にはスーパーには車が混在しており、駐車場だけでも五十に近い数のゾンビが確認できた。内部となれば、もっとひどいだろう。

 しかしこのままでは予備バッテリーも尽き、食料も尽きる。バッテリー補充はガソリンスタンドに行けばあるが、食料はスーパーにでも行かなければ足りなくなる。今は隣家の冷蔵庫から貰っているが、それでも足りなくなる時は来るだろう。

 ここらでそろそろスーパーかコンビニの偵察をして、ゾンビへの対抗手段を考えなければ。


 そう考えていると、ふと家の通信装置が鳴った。町内アナウンスの前兆のかすれた機械音が鳴ったのだ。


 「――――――、――――――、―――――」


 昭和のテレビのような砂嵐に近い音が鳴り、やがて静まる。一度放送をしたことがあるから分かるが、これができるのは人だ。ゾンビがどうこうしてできる事ではない。


 「俺以外の生き残りか…?」


 疑問。だが俺という例外があるということは、他の人にゾンビになっていない人がいると考えるのは合理的だ。

 

 目を細めて腸内アナウンスに耳を傾ける。最初に鼓膜を叩いたのは、やわらかな女性の声だった。


 「……ぁー、ぁー、こ、こちらヤマト地区パイナップルタウンの生存グループ『レジスタンス』です。この放送はヤマト地区の全ての家のみに極小の音量で流していますので、どうか聞いてください」


 「レジスタンス」と、そう名乗る女性、いや生存者グループはパイナップルタウンにいるらしい。パイナップルタウンは一週間前、俺がゾンビを処理した調整池のある霊園。その山の上に立てられた住宅街の名称だ。近代化に伴ってパイナップルタウンと名付けられてるが、俺の家のあるところはハヤシマタウンと日本らしい名前である。


 「今、レジスタンスは生存者を探しています。この放送を聞いている人は、どうかヤマト地区のレジスタンスに来てください。場所はパイナップルタウンに行く二つの道です。バリケード前に守衛が居るので、そこで簡単な健康診断をして、入って来て下さい。繰り返し、放送します――――」


 女性はゆったりと話しながらも最初の焦りはなくなっている。後ろからパタパタと足音も聞こえることからおそらく人がいるだろう。そもそもパイナップルタウンの町内会の会合場所は山の上だが住宅街からは離れている。そこにたった二人、しかも女子がいる、そんなわけがないのだ。


 「考えるなら十人以上か、もっといるかだな」


 守衛をつけているということはそれなりに数がいなければできない。特にパイナップルタウンともなれば相当の人数が生存していると考えられる。

 それだけの人数がいるのなら俺の生活も安定しそうだが、同時に住民同士の諍いに巻き込まれるリスクもある。ゾンビの形式が分からない以上、感染系でかつ潜伏期間があると仮定すれば猶更そういう場所に行くのは気が引ける。


 「だが、食料問題…。水も自動化されているとはいえ、電力が回らないと意味はない…ふむ」


 どうしたもんかなぁと、俺は首を捻る。リスクを取るか、リスクを回避を取ってゆったりと日常を喪うか。

 

 「繰り返し、放送します。私達は、パイナップルタウンの――――」


 迷ったが、俺は覚悟を決めた。


 趣深い時計が十二時のサインを出し、地区全体の放送に被せた十二時を知らせる自動音声が流れる。


 「なんでも、まずは情報だ。これがないと始まらない」


 俺が決めたのは、「レジスタンスに入りつつ、入らないこと」だ。何を言ってるか分からないと言われそうだが、これは筋が通っている論理だ。「入りつつ、入らない」。これが意味するのは、入るのは今は保留だが、レジスタンスの意図を知るために盗聴やドローンによる監視をするということだ。

 そう決めれば行動は早い。俺はすぐにドローンと地図を片手に、バッグを担いで家を飛び出す。周囲にゾンビの姿が全くないことに安堵しつつ、パイナップルタウンに潜り込める別ルートに行くのだ。


 「今さっき、放送したやつはパイナップルタウンへ行く二つの道と言っていた。ならば、もう一つの道については保留になっているか、認知していない可能性がある」


 前にも言ったが、ヤマト地区は昔は城があった場所だ。取り壊され、原型はもはやないが山にはその名残が残されている。例えば―――、


 「城が襲撃された際に女子供を逃がすための緊急避難用の山道。地元の人ですらここを通る人はほぼいないはずだが、…やはりな」


 パイナップルタウンへと至る主要な道は、北西と東南のアスファルトの道路のみだ。しかしそれは全てではない。

 俺が辿り着いたのは東南の道から西に百メートル以上進んだ先にある雑木林。そこを潜り抜けた先にある少し開けた場所だ。砂やら枯葉で本来あるものが隠されているが、ここは石階段の続く場所であり、古い昔、城を焼かれた際に兵士に守られながら若殿やその側近、女房や給仕を逃がすために使われたらしい。


 「本来隠されている道だ。あながち、これくらい獣道みたいな階段のほうが分かりにくいだろうな」


 過去にこの道を通ったことがあるため、この山道を上がった先にある入口については心配していない。非常に分かりにくく、子どもの頃にこの道を発見したのは本当に偶然だったからだ。

 ドローンを運びながら、俺は狭い山道を登り続ける。文化部に所属していたが運動していた甲斐があったというものだ。楽ではないが、筋トレをしていなかった中学生の俺のままであれば、途中で面倒くさくなって帰っていたことだろう。

 石階段の凸凹と段差の隙間を埋めた腐葉土の柔らかな感触に時々足を取られそうになりながらも、額に汗をかきながらなんとか最後の段差を登り切った。


 「前もこんな感じだったなぁ」

 

 息をつき、俺は最上段の先にある雑木林を潜っていく。思い出したのは小学生の頃の記憶だった。あの頃、このパイナップルタウンに居た友人宅から帰る途中で、昨今の近代化によってほとんどいなくなった野良猫に出会ったのだ。驚きと好奇心に駆られた俺は、野良猫を追いかけ、他人の家の敷地内に入り、フェンスの先の雑木林に身を投じた。


 「やはりな。家もフェンスも変わっていないということは、この家の人間は十数年、この場所に気づかなかったようだ」


 雑木林を抜け切り、見慣れた紺色のフェンスが目に入った。家も塗り直したらしいが配色や花壇のセンスからして家の主はこの場所に気づかなかったようだ。

 俺はフェンスを乗り越え、敷地内にある物置小屋を見る。コンテナの小部屋らしく、鍵自体ついていないようだった。窓ガラスがあり、中身を見てみるが、本当にただの物置小屋兼作業部屋らしい。


 「……いや、まだリスクはあるな」


 少し手をコンテナの小部屋の入口に近づけたが、やめた。別に手がもげる罠があるとかではないが、俺は確かに扉を開けるのをやめたのだ。

 

 「少し風があるが、問題はない。今回は全体図を得るだけだな…」


 庭の真ん中に地図を広げ、ドローンを動かす。重厚なコントローラーが要らず、タブレット一台で動かせるのは非常にやりやすい。スマホでも連携すれば動かせるが、小技が効くのはタブレットの方だ。

 

 ドローンは少し駆動音を響かせながら空に浮かび、だんだんと高度を上げていく。気流性エーテルによる噴出機構によって多少の風圧は無視することが出来るこのドローンは最大高度八百五十メートルを記録する市販品だ。高度は足りないにしても、通信ジャミング対策や熱探知カメラ、夜カメラ、バードストライクでも壊れない頑丈さなどただ飛ぶだけのとは違いお高めの値段になっている。電力も結構食うので長時間運転にも向いていない。

 だが、ドローンでタウン内を軽く四周することであらかたの情報は分かった。


 「人が集まってるのは子供会のある公民館。その周辺を人が行き来している…、こちら側にはほとんど人が来ていないのを見るに、人数はあまりいないと見るべきか、固まることを目的にしているのなら…」


 そう呟きながら、タウン内の全体地図に書き込んでいく。カメラ映像だけを見るに、数はそう多くない。大体ちょっと人口の多い高校の一クラス分だ。大体三十人前後だが、屋内にいる人間やタウンへの道二つにいる人間も入れれば五十人ほどになるだろうか。

 

 「年齢層も分かればいいんだが、……このレンズじゃ限界があるな。服装で少し判別するなら若年層が多いといったところだが…」


 誕生日にプレゼントされたものにケチをつけるわけけではないが、上空から音が聞こえない範囲ではカメラレンズで人の姿形を完全に補足することはできない。

 俺は少し歯噛みしつつ、人のよく出入りする場所、物資を入れている場所などをつきとめる。これだけでも大きな情報だが、このレジスタンスと呼ばれる組織が今何を考えているのかについても探る必要がある。


 「今は無理か…。軽くタウンへの道を見てみたが少しばかり人が集まっていた。集まった人の動向についても知らなければならぬな…」


 この道へと至る前、少し遠目ではあるがパイナップルタウンに足を運ぶ生存者の姿があった。俺以外にもいることは不思議ではなかったが、そこまで数は無かった。しかし、全体数が多くなることでレジスタンスの活動範囲も広くなることだろう。それに加え、集団力学の観点から見ても、いたずらに人数が増えれば、それこそが身を滅ぼすものになりかねない。


 「どういう条件で受け入れをしているかは明かさなかった。ただ、健康診断があるとだけ…。ただで受け入れをするわけがない。なにかしら、裏があるはずだ」


 俺は自分が疑り深い人間だという自覚がある。しかしそれが悪いことだとは微塵も思わない。

 俺はバッグから大量の充電器らしきものを取り出す。充電器と言うには大きすぎるものだが、この機器一つ一つが俺に武器を与えてくれるのだ。

 

 「さて、普通の組織であってくれよ。荒涼とした状況でも、人を人とも思わないような言動だけはしないでくれよ…」

 

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