Dooms day
人類にとって、滅びの決起となる8月のある日、その早朝は誰にとっても日常が完全な非日常となる日だっただろう。
2XXX年、ヤマト地区の高校は夏休みに入っていた。
全国的に見て若干夏休みの時期が早いのは高校の立地が山の中で、全寮制であるという点だ。昨今の少子化のあおりを受けたこの高校は3年までのクラスは5クラスから3クラスに激減しており、寮の空き部屋、もとい数棟の寮は取り壊しの予定が入っていた。立地の悪さや寮が橋によって統合されていることや老朽化のため学校側が夏休みを前倒しにして生徒全員を実家に帰らせたのだ。
織戸アヤトはその帰らされた学生の一人であり、一番遅く寮を出た学生だ。特別荷物が多かったわけではない。むしろ部屋の8割をルームメイトが占拠していたため、荷物の寮は下手すれば学年の中で1番少なかっただろう。
ではなぜ、最後に寮を出たのか。答えは単純明快にして、実に馬鹿々々しいものだった。
「まずいな、人の流れを見てたら朝のバス全部乗りそびれた…」
スクールバスの停留所の時刻表を見て、アヤトはため息をついた。3階からせっせと荷物を背負って帰っていく学生たちの姿を眺めていたら自分以外の全員が帰っていたなど。それどころかバスまで乗り遅れる始末だ。知られてしまえば、恥辱に悶える新学期を向かえることになりそうだ。
「仕方ない。ちょっと遠いけど歩くしかないな…」
夕方のバスが来るまで6時間以上ある。
まだ夏は始まったばかりで蒸し暑いわけではないが、それでもほんのりとした暑さは人の水分を吸うのには丁度良い。
アヤトは日陰もないバス停で待つよりも片道50分かけて歩くことに決めた。
「歩くことになるなら抹茶と団子買ってたな…。惜しいことをした」
スマホで1日を潰す学生であるアヤトだがずっと怠惰にしているわけではない。山道を散歩し、適当なところで抹茶を片手に野鳥や風景を楽しむ、古風な趣味もあるのだ。
しかし持ってない散歩は少し堅苦しいものがある。
曲道の道路をつくるより学校から麓まで一直線の道路を作ればいいのにと思いながら、アヤトはえっちらおっちらと山道を歩いた。
山の中腹あたりになると麓の街の喧騒が聞こえてきた。毎日違う喧噪模様は最早ヤマト地区に住む人にとっては日常となっている。
工場の煙が遠くからでも立ち上っているのが見え、バイクの騒音が一段と煩く、雑木林をかきわけて聞こえてくる。乗っている人間の心情は他者には届かないことがなんと憎らしいことか。
山の中腹も越え、もう10分も歩けば麓に至るといったところで、雑木林の向こうから、ヤマト地区の街から火の手があがっていることに気づいた。
まだ火は小さいものの、あちらこちらから黒煙が立ち上っており、その周辺で人の叫び声が何度も響いている。単純な事故による火事よりも事件性が高いのは誰の目からしても明らかだろう。
「火事か…。いやでも若干怪しいな。こんな昼間から放火とか効率的じゃない」
火事に効率性を求めるとはおかしな話だが、偶発的にしても立ちあがる煙の量はガス管の欠損よりも放火を疑うには十分だろう。
アヤトはガードレールから身を乗り出してじっと放火された家々を、そして逃げ惑う人々を観察する。
火の手が上がっているのは家に突っこんだ車のガソリンが引火したであろう、家の壁や外側玄関が主だ。人に見つかりにくい裏手からはほとんど火が出ていない。かといって、全部の火事が車が突っ込んだことによる引火とは考えづらい。数か所は意図的に火をつけた場所があるはずだ。
人の流れにも妙な違和感がある。火事だというのに人々は火事の家に見向きもしない。否、見てはいるのだろう。しかしどこに逃げればいいのか分からないとばかりに右往左往している。
「何かから逃げている感じだな。だけどここからじゃぎりぎり分からないな…。人から逃げているようにも見えるけど、ヤマト地区で暴動みたいな話聞いたことも見たこともない」
そもそもヤマト地区は田舎だ。ド田舎ほどではないが、議員や重要な施設がある場所ではない。だからか、アヤトは不思議に思いつつ下りる足を速めた。
麓まで降りると、街の喧騒は平常時とは大きく違うことが如実に表れていた。
いつもはがらがらの三車線道路が玉突き事故で車が1本の帯ように地平線の先まで伸びており、歩行者道には横転した車があちこちに転がっている。人の叫び声、悲鳴、怒号が飛び交い、人々の波はごったがえしていた。
やはり暴動なのだろうか。しかし、なにか訴えるようなポスターも旗もない。あちこちで火の手があがり車は事故を起こしている。無暗に鳴らされるクラクションがよく聞こえないほどに、ヤマト地区は混沌を極めていた。
「様子見したいけど、先に家戻らないとな。家で大人しくするのが良い」
アヤトは好奇心を抑え、部活の走り込みで利用する狭い通り道へと足を運んだ。人の悲鳴が響くが、混乱している人ごみはトラブルの元だ。スマホを落とせば見つからないし人にはぶつかる。転べば立ち上がる気力さえ踏みつけられて下敷きになること必至だ。
あとでスマホで確認しようとアヤトは他人事のように誰も通らない狭い路地を時折蟹歩きをしながら進んでいった。
街の異常事態の影に隠れ、アヤトは狭い路地や側溝を飛び越えながらさながら昭和の子どものように不規則に、しかし一貫して家のある方向へと進んでいた。
やがて見覚えのある住宅地までたどり着いた。
周囲にはあまり人の影はなく、しかしあちらこちらから煙が上がっているのを見るに、アヤトの家の周囲も巻き込まれていることが分かった。
「車はある。慌てて逃げた形跡もない。パパとママは無事、と見るべきかな…」
車は2台ともガレージに出た様子はない。玄関は閉まっており、勝手口や窓が割られた様子もなければ囲いの入口が開けられた様子もない。
「あちこちから火の手が上がっているし、人は騒いでいる。ひとまず合流しないとな」
自分の家が燃えていないことがなによりの幸運だと、アヤトは家の裏や隣家の状態を軽く観察した後、そっと玄関の扉のドアノブに触れた。
予想通りに鍵は閉まっている。
「いつもは開いてるからな。パパとママは少なくとも外の状況を知ってるってことだ」
俺はポケットから鍵を取り出し、鍵穴に差し込んでくるりと回した。
ガチャリと金属の噛み合う音が響くが、その音も後ろを通る救急車の呼吸音にかき消された。
「ただいま」
一声かけてみるが反応がない。
もしや混迷の状況に乗せられてパパもママもどこかへ避難したかもしれない。そんな考えもよぎったが、廊下にある除湿器のスイッチが切られていないということは、それはありえない。
「…怪しいな」
不気味な雰囲気にアヤトはそろりと靴のまま家にあがる。新築の家故に不要な物音は一切しない。それが余計にこの家が自分の領域ではないことのように思えた。
夏休みまでただの一度も戻らなかった家だが、それでもこの機械音だけがでかい顔をするこの空間には違和感しかなかった。
「うん? パパはいるみたいだな。だが足を放り投げて…嫌な気配がするな」
リビングにつながるドアをガラス越しに見てみると、デカいソファの隙間から父親の両足が見えた。フローリングに寝転がっているのだろう、しかし白靴下の履いた足はぴくりとも動かない。
瞬間、暴動に巻き込まれて命からがら逃げおおせ、自宅で絶命したのではないかと考えたがそれならば外や廊下に血痕がなければ納得できない。
「自宅で殺害されたのか…? いや、気絶させられているだけと言う可能性も…ママの姿が見えないが…いったいどこへ…!」
ドアに手を掛けて、しかしじっくりとガラスからリビング内を見ると母親の姿があった。顔はソファに隠れて見えないが、歳を考えていないあの派手な服装は絶対母親だと、アヤトは確信した。だが、確信すると同時にアヤトは母親の奇妙な体勢に気が付いた。
母親はしゃがみこんで父親の胸あたりに顔をうずめている体勢だった。
「……!」
不思議な光景にぎょっとしつつ、そっとドアノブから手を離した。
何か、様子が変だ、と。
「なんだ、何をしてるんだママは…いや、ママかあれ…」
泣くなら号哭が聞こえなければおかしいのに母親は何も言わない。死んでいるわけではなく、背中はゆらゆらと動いている。
何かに憑りつかれたかのように、母親は父親の胸に顔をうずめている。
直観的に話しかけるべきではないと、アヤトの本能が告げた。
「…………」
ゆったりとした動作でドアから離れ、そそくさとアヤトはトイレにかけこんだ。
鍵を閉め、バッグを下ろし、スマホを取り出す。
電源をつけ検索エンジンを起動すると、ニュース速報記事に〈ニッポン全土で暴動か〉の文字が目に入ってきた。タップして記事を読み込み、アヤトはその文面に息を飲んだ。
「ニッポン各地で暴動…。原因不明……、ニッポンだけでなく、諸外国でも似たような事象が報告されている…」
どうやらヤマト地区だけではない。ニッポン各地で似たようなことが起こっている。加えて、この問題はニッポンだけでなく、中華連合、ソビエト共和国、アフリカ帝国、連合国家アメリカなどの大国からバチカン、オーストリア民主国、新ブラジリア王国などの小国でも発生しているらしい。
言わば、全世界で同時多発的な暴動だ。
「暴動か…、同時多発的ということは過激派のテロ行為の可能性も否めない…」
原因がなんであれ、それが今の事象を引き起こしている以上、まずは起きていることの詳細を知らなければならない。
アヤトは今度はSNSを開き、最近のトレンドから暴動に関する投稿を見た。
「やっぱり人はこういう事件があると何かと発信するな…」
人の暴れる動画、大破した車の写真、包丁片手に全力ダッシュする人の動画、中にはグロティスクなものもあるが、こういうアブノーマルな合法的コンテンツではAIで作られている疑念を除けば真実を知ることが出来る有益な存在として機能する。
それはアヤトにとっても同じことだ。
動画を1つタップすると、自爆テロなのか、暴動から逃げている人間の身体が内側から破裂した一部始終が見られた。
他の動画にも「暴動から逃げる人、急に体の一部が変化する奇病か?」などのタイトルで、人の腕や頭が刹那的に変異しあちらこちらで倒れたり他の人間を襲ったりしている瞬間が載せられていた。まるで薬物中毒者の世界観のような、サイケデリックな光景をそのまま人の前頭葉に注射したかのような光景が、画面を通して伝わった。
「まさかママもか…? いや、そんな…」
否定したい気持ちも山々だが、母親がその奇病の被害者ではないとはいいきれない。父親はぴくりとも動いていなかったのは、自宅で母親が感染し、それによって父親が襲われたと説明を付けることが出来る。
「ひとまず、試してみる必要がある…」
アヤトはそっとトイレから出て2階に這い上がる。
自室へと駆け込むと、机の引き出しから包装用プラスチック紐を出した。
SNSでは過激派宗教団体による人の神経に異常を来たす病原菌の流布説や、世界滅亡の日の予言だという勢力、新種の狂犬病による人口削減計画派が強かった。
アヤトの精神性上、上記のような身も蓋もなさそうな陰謀論は信じない派ではあるが、間違いとは現状言えない。もしも麻薬の類によるものであれば接近は避けるべきであり、病気の類なら猶更だ。
アヤトはさらに押し入れの奥から新聞紙にくるまれた何かを取り出した。
「これを使う時が来たか…というよりも使わざるを得ないというか…」
かなり長さのあるそれは、一見釣竿のようにも見えるが中身は全くの別物だ。
弓だ。
新聞紙にくるめられていたものは、アヤトが高校に入部した時に買ってもらった弓だった。この弓は弓道部のアニメに煽情されて買ったものであり、しかし的への命中度合が絶望的になかったため退部し、玩具の実験道具にされた後そのまま押し入れに封印された経緯がある。
「一見すると多少改造された形跡のある弓だが、これだけでは足りない」
更にベッドの下から木箱を取り出した。かなり大きい工具箱に見える。アヤトはその工具箱を開き、両手持ちにしては銃身が長い木製の水鉄砲のようなものを取り出した。
「懐かしいな。1年前だっけか。あまりにノーコン過ぎて補助道具として改造したんだったな」
そう言い、穴の空けられた弓の中心部分と水鉄砲のとがった先端を合わせ、ナットで固定する。鉄砲の手持ち部分と弓の持ち手部分にも同じ作業をし、弓の弦を鉄砲後方の弾倉部分に引っ掛ける。さながら見た目はクロスボウとアーチェリーを合わせた見た目だ。
「これで多少レンジも射程距離も伸びたし命中率も上がったけど、飽きちゃったんだよなぁ…」
弦はトリガーを引くとしなる仕組みにしており、1回撃つのに時間を要するもののスプリングを搭載しているため普段の弓による射的よりもずっと速く矢を射ることができる。しかし、これはあくまで練習用で命中率を補佐するための器具に過ぎないし、アヤトは本番用の弓を使えるようになる前に弓道に飽きてしまったため、こうして今の今まで押し入れやベッドの下に封印されていたのだ。
「でも今はこれくらいしか安全に戦えるものがないんだよなぁ。ママが奇病にかかってないに越したことはないけど、別れはいつ来るか分からないし、覚悟はしておくものだ…嫌だな…」
ため息を吐き、少しの迷いの後、アヤトは矢を装填する。連射性能があるこの弓は縦長で室内で使用するにはかなり場所を取るが、その代わりにその矢の威力は畳くらいなら余裕で貫通する。
「さて、これが悪い夢であることを証明しよう」
アヤトは決心し、スマホ、紐、弓を携えてそろりそろりと1階のリビング前までやってきた。
母親は移動しておらず、さっきとほぼ体勢が変わっていない。
やはり不気味だなと思いつつ、SNSで見聞きした内容を思い返し、早速アヤトはスマホで母親宛てに電話をした。
「これで普通通りに電話に出てくれたら吉だな。頼む、人として出てくれよ…。これが現実だとは、思いたくもない…」
リビングの、固定電話が置いてある棚、その横のスペースに置いてある母親のスマホから軽やかな電子音楽が流れ始める。バレエに使われていそうな音楽が、渇いた汚泥の空気の中に鳴り響く。
その音に母親はぴくりと固まった。
「反応した。ということは母親にはまだ意識があるな…。どうだ、電話に出るか? 変にドキドキさせないで、いつも通りに出てきてくれよ…」
SNSの動画内では奇病に罹患した人は終始暴れながら訳の分からない叫び声を上げていた。これで母親が人とは思えぬ声を上げたならば、覚悟を決めなければならぬ。だが、そんな気狂いじみた行動を取っていない母親に、アヤトはどこか安堵した気持ちになっていた。
だが、世界の真実はその希望的観測を足蹴にした。
「ぅパ?」
人語とは思えない言葉に、母親のすべらかな声ではない、電子音と獣声が混ざったような不協和音が母親だったものの口からこぼれた。
勘違いを疑いつつ、そっとドアノブに手を掛けるアヤトの前、ガラス越しに母親の全体像がくっきりと映った。
「……!!」
口だった。
否、顔のあるだろう部分が巨大な口になっていた。母親の、ましてや人間の口とは思えない、顔面の皮膚が十字に引き裂かれたような口。そこから無数の芋虫のような身体がうねりながら音のなる方向へと身体を曲げる。
「ぉアぷぱ」
乱雑な手でスマホを取ろうとしたが、誤って固定電話を落としてしまった。
「ぁ、にゅゥア」
何を言っているのか分からないが、母親だった化け物は目が見えていないのか、棚をばんばんと叩いている。未だスマホの着信音は鳴りっぱなしだ。
「ぱパ」
やがて、スマホを手に取ることが来た化け物は、そのスマホをぺたぺた触る。まるで初めて文明に触れたハムスターのように、ぺたぺたぺたと、そのスマホを触り続ける。だが―――、
「ザp」
風のしなる音、空気の裂ける音が聞こえた直後、化け物の脚を矢が貫通していた。非殺傷とは言え矢じりは鋭い。
「――――!」
化け物が振り返るよりも速く、第2、第3の矢がふともも、背中を射た。続けて2射。これは右肩と首筋に命中した。
化け物は怯む様子も痛がる様子もなく、その口が自身の敵対者へと向く。
「―――!!」
走りだし、化け物はその敵対者に顔面でもってして食らいつこうと大口を開けた。
その瞬間だ。
「がパ」
敵対者、もといアヤトが弓を手放し、廊下の壁に立てかけておいた傘を手に取り、先端を口の化け物の口めがけて突き刺した。普通なら骨によって貫通はしないが、もう母親は化け物に呑まれているのか、後頭部から傘の先端が貫通した。豆腐ほどではないにしろ、こんにゃくのようにスルスルと傘が突き刺さっていく感覚は、アヤトの生理的嫌悪を呼び起こした。
「間接的とは言え、最悪すぎる――――」
だが!と、アヤトはそのまま全体重を傘にかけ、化け物を押し倒した。全身に骨が入ってないのか、倒れた化け物の身体はゴム鞠のように大きく弾み、拍子に突き刺さっていた矢がいともたやすく貫通する。
「えぇい! ここで変に踏みとどまれば次の犠牲は俺になる!」
ぶよぶよした肉塊、血しぶきがたらたらと流れ出ているのを見て不意に止まりそうになる腕を動かした。
ポケットから取り出したのはプラ紐だ。輪が作られており、それを化け物の首を囲むように通していく。
「これで動かなくなってくれ!」
手に紐を巻き付け、輪に通した紐を力の限りに引っ張る。ぎゅるりと紐が化け物の首を絞めた。
化け物は抵抗しているが、苦しんでいるような声は出てこない。
効いていないのではないかと言う疑問が脳裏をよぎるが、手を止める理由にはならず、アヤトは化け物の胸を踏みつけ、全身の力で以て紐を引っ張った。
数分はこの体勢だっただろうか。やがて、化け物はべちゃりと音を立てて崩れるように倒れ伏した。呼吸器官があるのか、それを潰したからか化け物はぴくりとも動かない。
「………大丈夫か? 本当にちゃんと死んだのか? 死んだふりで襲い掛かってこないだろうな?」
試しに突き刺さったままの傘をもう一度突き刺し、ぐりぐりと化け物の口を掻きまわす。やはり微動だにしない。
化け物の苦闘の末、九死に一生を得たアヤトはおそるおそる化け物の死体から離れる。横のソファ、その前には胸部を抉りだされ、ぽっかりと穴の空いた父親の姿があった。こちらは即死なのか、争った形跡もなく、目を見開き、口の端からは血が流れていた。
「……。物思いにふけるのは後だ。いまは、そんなことをしている場合じゃない…!」
アヤトはそっと1人と1体の遺骸から目を逸らし、現実から自我の冷静さを取り戻すためリビングのガラス窓から辺りを見回した。
誰もいなかった。人は。
「嘘だろ…」
人は、1人もいなかった。
化け物だ。
アヤトの視界の先、道路に面した場所を徘徊するのは、身体のどこかが異質に変化した化け物ばかりであった。




