2.回帰から解放された令嬢は消滅を希望する。
回帰する前、母の形見であるペンダントには不思議な刻印があった。初めて回帰する前は、5という形をした刻印。
初めて回帰した時には4という形をした刻印。
繰り返し回帰した時には、3や2や1などの刻印に変わっていった。
そして回帰5回目は、刻印が残っておらずただの普通のペンダントになっていた。
これでもう回帰は最後だということか。
「5回も回帰して何がいけなかったのかしら」
ベッドに横になって考えた。
5回とも、エスター公爵家にすがりついたこと?
それとも愛を求めようとしたこと?
それとも
ーーこの世に生まれてきてしまったこと?
義理の兄であるフィンのように時には駄々をこねたり
愛されたいと望んだことが悪かったのかもしれない。
努力すればいずれは、愛してくれるそんな希望を持ったから。
今思えば、いくら努力したって
『そんなんでエスター公爵家の娘と認められるとでも思ったのか?』
返ってくるのは馬鹿にするような態度と冷笑だけだった。
「…っ」
ふつふつと悲しみが湧いてきて涙が止まらない。
涙がぽたぽたと枕に落ちて枕を濡らしていく。
もう回帰して生き続けるのも努力することも死ぬ運命を変えようとするのも疲れた。
この世から消滅してしまいたい。
ここではそう簡単にはできない。
エスター公爵家の娘の代役としているのだから死のうと思ったらエスター公爵が許さないだろう。
だけど回帰が最後だというのなら私はもうこの世から消滅したい。永遠にこの世に生まれることのない存在になりたい。
どうせなら、今まで無駄に使ってきた時間を思う存分使って
自由に謳歌して、成人してすぐに消滅したい。
そのためには、まずこのエスター公爵家から出ていかないと行けない。
でも出ていった後行く宛てがどこにもない。
行く宛てがなかったら、今までのようにあっけなく死んでしまう可能性が高い。
「一体どうすれば…。」
その時だった。
ガチャリ。
扉が閉まるような音がした。
「くくく…」
悪者のような笑い方が扉の先から聞こえる。
(セザン…またこんなことを。)
セザン・エスター、エスター公爵家の長男で次期エスター公爵になる人。そして私の義理の兄である。
もう義理の兄とは呼びたくないけど。
それくらい、彼は私に陰湿な嫌がらせや虐待をしてきた。
今のように、扉を魔法で閉じたりして。
そのせいで、食事が届かなくて飢え死にそうになったことが何回もある。
ようやくのことで扉を開けられようやく食事をとることができた時に彼は反省することなく
『…ったく惨めな姿だな。』
馬鹿にするような態度を変わらず取っていた。
私は扉の前に行き、扉を開けてみる。
ドアノブを動かしても開くことができない。
(やっぱりまた閉じ込めたのね。)
馬鹿馬鹿しくなる。こんなことをするなんて。
こんなことをする人達に愛されようとする私が恥ずかしくなってしまう。
扉の向こう側から何も音がしない
鍵をかけたことに満足して出ていったのだろう。
私を閉じ込めて楽しんでいるようだけれど、もうそれはおしまいのこと。
私は、手を扉に向かってかざした。
するとカチャリと扉が開く音がした。
回帰する中で学んだ神聖魔法。
枯れた花を再生したり、疫病を治療したり
またこのように魔法を強制解除させることもできる。
回帰4回目の時に学んだ甲斐があった。
私は再度ドアノブを動かす、すると閉まっていたはずの扉が開いた。
私は誰にもバレないようひっそりと部屋を出ていった。
部屋を出た後に向かった先は…?
セザンにバレないといいですね(フラグ)
ちなみに、胸くそ悪い情報としてセザンは閉じ込める以外に魔法でマリアンヌを操ったりして遊んでいました。