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追放された天才補助魔法師、幼馴染のSランクパーティーに入って最強になる

作者: 神居 雄介

「……アルト、お前は今日限りでパーティーを外れてもらう」

 静かな神殿の間で、その言葉は落雷のように響いた。

「……は?」

 アルトは思わず聞き返した。目の前に立つのは、聖剣を腰に佩いた勇者・レオン。背後には、聖女エリアと魔術師セリナが並び立っている。

「お前の支援は、もはや不要だ。俺たちはもう“本物の力”でやっていける。そもそもお前の支援魔法、本当に効いているのか?」

 エリアが嘲るように笑う。「あなたの加護、最近うまく発動してませんよね。やっぱり、才能の限界でしょうか?」

 セリナは冷淡に書類を差し出した。「王国からも正式に“補助役の交代”が承認されたわ。あなたの存在は、戦力ではなく“足手まとい”と判断されたの」

 無言のままアルトは書類を見つめた。

 そこには《勇者パーティー認定破棄・支援職リク=アステルの除名通告》と記されていた。

「……なるほど。つまり、俺は最初から“使い捨て”だったってわけだ」

 アルトの声は、どこまでも静かだった。

「そもそもお前は、俺たちのパーティーに入る器じゃなかったんだよ。

俺はこの国一の勇者で、エリシアの婚約者だ。エリアは次期大司祭候補だし、セリナに至っては魔導士ギルドで唯一のAランクだ。お前は確か、Cランクだったか。」

そう言ってレオンは見下すような目でこちらを見つめてくる。

「あなたって本当に卑怯よね。私が治癒魔法を使っている時も、大して効きもしない補助魔法をかけてきて…それで自分は有能ですって顔してさ。」

エリアは、俺にむしろ軽蔑の視線を投げかけてくる。

「そうね。あなた程度の補助魔法師でも羨まれるのは、私たちの力がほかのパーティーよりもとびぬけているからでしょう。あなたは一般的な…いえ、それ以下の魔法師よ。」

「まあ、そういうことだ。次の補助魔導士は、王都魔術学院主席。お前よりもずっと優秀な奴だ。そいつが入ったら、お前はもはや周りから羨まれることもなくなっちまうなぁ。」 

確かにこいつらの言っていることは正しいだろう。補助魔法はなにより、かけた相手のもともとの実力に呼応する。俺の後の補助魔導士が有能ならば、こいつらにとってはそれが最善だろう。

「・・・わかった。今まで世話になったな…。」

そしてアルトは踵を返し、そのままパーティーのもとを離れた。

「これでパーティーもスリムになったな。真の英雄に雑魚は不要だ」



レオンが酒を片手に気持ちよさそうに言う。

「ええ。そもそも、あのような半端なものを一度でもこのパーティーに入れたのが間違いだったのです。そのせいで、リクは自分が優秀な魔導士だと勘違いしてしまった。」

「ここからが、本当の旅の始まりね。足手まといもいなくなったし…次に入ってくる魔導士は一級品。これでもう私たちのパーティーの弱点はなくなったわね。」

セリナがそう言うと、残りの二人もそれに合わせて大笑いした。




これからどうしようか・・・。王国から足手まといの認定の烙印を押されたような奴と、わざわざ旅をしたいというやつもいないだろう。

アルトは町中を歩きながら、これからどうすべきかを考えていた。しかし考えれば考えるほど、自分の人生がこの先好転するとはどうしても思えなかった。

その時、後ろからものすごい速度で迫ってくる足音が聞こえる。驚いて後ろを振り向くとそこには、幼馴染であるリーゼが立っていた。

「聞いたわよ。あんた、勇者パーティーを追い出されたんだって?」

リーゼは肩で息をしながら、とぎれとぎれの声で言った。

どこで聞いたんだそんなの・・・

「そうだけどお前に何か関係があるのか?」

俺は語気を荒げて言う。リーゼの顔を見ると、その顔にはニタニタとした笑いが広がっていた。

「いやぁ~。ただ、何であんたほどの魔導士がパーティーから追い出されたのか気になって・・・。

もしかして、パーティーメンバーの子を襲ったりした?」

「誰がそんなことするか!!   ・・・パーティーを追い出されたのは、単に実力がなかったからだよ。」

「え・・・。実力が無いって、だれが・・・?」

こいつ・・・っ。俺に最後まで言わせるつもりか。

「俺だよ。俺に補助魔導士としての実力が無いから、パーティーから追放されたんだ。」

「はあぁ!?」

リーゼが突然素っ頓狂な声を上げた。

「ちょっと待って! 私はあなたとの才能の差に気づいて、魔導士になるのを諦めたのよ。

そんなあなたに、実力が無い!?」

「事実としてそうだったんだろう。もし俺がもっと優秀だったら、あいつらのもともとの実力を更に引き出せただろう。」

そういうと納得したのか、リーゼは何も言わなくなった。ただその顔は、妙にむずがゆそうな顔をしていた。

「まあ、あんたがどういう理由でパーティーを追放されようが私はどうでもいいんだけど・・・」

「なら聞くなよな・・・」

そういうと、リーゼはなにやら決意のこもった目をこちらに向けてきた。

「ねえ、アルト。私たちのパーティーに入らない?」

「え・・・  お前らのパーティーって、たしかSランクだったよな。」

「ええ、そうよ。何か文句でもある?」

「いや、俺はAランクパーティーでも役立たずだったんだぞ。ましてやSランクなんて・・・

そもそも、お前のパーティーメンバーが了承しないだろう。」

「そこに関しては大丈夫だぜ。」

声の聞こえた方を振り向くと、一人の男が立っていた。

整然とした僧衣に、深紅の裏地がちらりと見える上品な装い。

腰には数珠と一緒に、小さな酒袋と銀の煙管がぶら下がっている。

草履は丁寧に手入れされているが、鼻緒には洒落た葡萄の刺繍入り。

袈裟の香りは香木と、どこか酒場の残り香が混じっている。

・・・そして、


――片手に、湯呑のように構えられた小ぶりの酒盃。

中には琥珀色の液体が揺れ、香ばしい香りが仄かに漂っていた。

それを、法話の最中でさえ口元に運ぶ仕草に、一切のためらいはない。

「ちょっとフェルム!あなたまた飲んでるの!?セスにばれても知らないわよ。」

リーゼが横から甲高い声を上げる。

僧侶姿の男_フェルムはまた酒盃を口元に持っていき、中身を口元に流し込んだ。

「大丈夫だよ。あの魔法バカは今魔道具店で魔道具を買いあさってるから、ここまでは来ないはずだ。」

リーゼはあきれたような様子だった。

「まあ、いいけど・・・。 じゃあ、フェルムはアルトを入れても大丈夫ってことよね?」

「ああ、そうだな。セスの奴にはまだ聞いてないが、まあたぶん大丈夫だろう。

そういうわけだから、これからよろしく頼むな。アルト。」

そう言ってフェルムは、俺に向かって酒盃を差し出してくる。

「アルトはまだ成人してないのよ!何しようとしてるわけ!?」

俺がどうすべきか戸惑っていると、リーゼが横から助け船を出しくれた。

「そうなのか?悪い、本当にわからなかったんだ。」

一切反省していなさそうな謝罪が返ってくる。

「知らないわけないでしょ!?アルトは私の幼馴染なんだから!」

「年の差がある幼馴染だっているだろ。」

二人がどうでもいいことで言い争っていると、奥から女が歩いてくるのが見えた。

風をよく通す薄手の長袖シャツと、動きやすそうな革製の旅装。

袖を少しまくり上げ、手首には銀糸の刺繍が光る細身の呪符バンドが巻かれている。

腰には巻物の代わりに、小さな魔導書を固定するホルスター。

その隣には、魔力の結晶を詰めた小瓶がいくつも揺れていた。

女の姿を見た途端、フェルムの顔が引きつり始めた。

「セス! ここだよ。」

リーゼは、セスに向かって手を振り始める。

「これって、何の集まり?」

セスは不思議そうに小首を傾げた。

「セス、聞いて。フェルムが昼間っから酒を飲んで、未成年にお酒を勧めてたの。」

「おいっ お前、ずるいぞ!」

フェルムが抗議の声を上げるが、セスによって黙殺される。

セスの鋭いまなざしがフェルムの腰にかかった酒盃をとらえる。

フェルムは気まずそうに地面を凝視している。

「フェルム、あなた。またなの?」

フェルムは何も発さない。辺りには冷え切った空気が漂っている。

セスはフェルムのそばにより、少しかがんでから腰に掛けてある酒盃を手に取る。

そして、フェルムの耳元に何かをささやいた後、元居た場所に戻った。

・・・どうやら説教は終わったらしい。何かをささやかれたフェルムは、生まれたての小鹿のように足がすくんでいた。

何を言われたらあんなことになるんだろう…

「リーゼ、この子は誰?」

セスがこちらを見ながら訪ねた。自然に体が強張ってしまう。

「私の幼馴染のアルトだよ。パーティーを追い出されたらしいから、私たちのパーティーに入ってもらおうと思って。」

リーゼがそう言うと、セスは俺の方をなめまわすように見てくる。

値踏みされている・・ 本能的にそう感じた。

「まあ、いいんじゃない?  それじゃあ、明日からよろしくね」

「セス。明日は朝から近くのダンジョンに行くから、遅れないでね。」

それを聞くと、セスはどこかに行ってしまった。

「はあ~。」

横から緊張をすべて吐き出したような安堵のため息が漏れた。

俺とリーゼは驚きつつも、いまだ足が震えているフェルムを見下ろす。

「リーゼ、お前告げ口はずるいだろ…。」

そう言いながらリーゼを軽くにらむ。

「もともとはフェルムが悪いんじゃん」

そんな批判にも、リーゼはどこ吹く風と言った様子だ。

「まあ、良いけどな。じゃあ、また明日ダンジョンでな。」

そう言ってフェルムは酒場の方へ足を進めていった。

「あのバカ、まだ飲むつもりなの・・・」

リーゼはあきれ果てた様子だった。

その表情が面白くて、思はず笑ってしまう。

「なに?」

リーゼが怪訝そうな表情をしながらこちらを見てくる。

「リーゼ、ありがとな。俺をパーティーに入れてくれて。」

「あんたほどの補助魔法師を野放しにしておくのはもったいないと思っただけよ。

それに、これからバリバリに活躍して、あんたを追放したパーティーを見返してやりなさい!」

そう言って、屈託のない笑顔をこちらに向けてきた。

ここから、アルトの下剋上が始まる。







 





 




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