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天才ではない者  作者: Aju
1/8

1 新星

「いちばん初めのカード」の外伝です。

ちょい役で出てきた響孝之くんの物語です。


作中、未来屋 環さんに名前だけ出演をお願いして快諾を受けました。

感謝。


 美術雑誌にその名前を見つけたとき、響孝之ひびきたかゆきは危うく学食のカレーハンバーグを雑誌の上に吹くところだった。


 『美術界に驚異の新人現わる!』


「どうしたの、ビビキ?」

 そんな孝之に茂則環しげのりたまきがフォークにハンバーグのカケラを突き刺したまま手を止めて訊いてきた。

 この、どれが苗字で名前だか分からないような男は、一浪してるから孝之より1つ年上だ。

 「男」と書いたが、本人曰く、性自認は「女性」なんだそうだ。

 髪は漆黒さらっさらのストレートで、まつ毛が長く、ホルモン治療を受けてもいるので、大きくはないが胸もある。

 どこからどう見ても掛け値なしの美人だ。

 ただ、「手術は怖いから」という理由で、男子のシンボルもまだ付いたままだという。


「少し変わってるけど、お友達になってくださいね。」

 彼——もとい、彼女か——が、入学式の日に皆の前でさらりとカミングアウトした時のことだ。

「ここにいるのはみんな変わってるから。」

 誰かが言って、一斉に拍手が起こった。

 初日に皆の前でカミングアウトした彼女の(以降「彼女」と呼ぶことにする)勇気と自然さをみんな好ましく思ったからだろう。

 そんな中で、孝之だけがビビった顔をしていたらしい。


 こ・・・この美人、・・・でも、アレ、付いてんだよな・・・?


 そして孝之には、「ビビリの響」を縮めて「ビビキ」というあだ名が付いた。

「響クンは、ボクがきらい?」

 潤んだような瞳でそんなことを言われると、孝之はドキッとしてしまう。


 彼女は自分のことを「ボク」という中性的な響きで呼ぶ。子どもの頃から周囲と波風立てない知恵として身につけてきたのだという。

 明るく振る舞ってはいるが、きっと理解のない大人たちに傷つけられたことも数多くあったんだろう。

 そうは思うが・・・・。


「そ・・・そんなことは、ないよ。ふつうに好きだし。・・・と、友達として・・・」

「あはははぁ! やっぱ、ビビキだぁ!」

「か・・・からかってンすか? センパイ。」

「先輩じゃない。一浪とはいえ同期だ。オバン扱いすんな!」

 こういうやりとりは、同世代の女の子との普通の会話だなぁ、と思う。

「だいたいビビキはさぁ、男女が友達になったらすぐエッチに結びつくとかいう偏狭な観念でも持ってんの?」


 そういうわけじゃないけれど・・・。と孝之は思う。

 目の前にいるのが美人すぎるんだよ・・・。


 そんなやりとりを経て、夏休みに環も含めた友人たちと一緒に創作合宿にも行き、2学期を迎えた学食でなにげに美術雑誌を眺めていて、孝之はその名前を見つけたのだった。


「なに? なんか面白い記事、載ってたの?」

 そう言って覗き込む環に、孝之は口の中のハンバーグを呑み込みながら記事だけを指差した。

「ああ、それね。なんか、すっごい天才新人みたいよ。ボク、見に行ってみようと思ってるんだ。」

「し・・・知ってたの?」

 孝之もようやく声が出た。



 美術界に驚異の新人現わる!

 若干19歳でAMAACに入選

 異例の経歴を持つ『色彩の魔術師』=萌百合静香の作品の魅力

 東京・浜野画廊 9月10日〜9月30日



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