第7話 撃退、そして…?
水上アクアと手を組んでフリーゲルのテロを防ぐために動き出した。警察の爆発物処理班が次々に仕掛けられた爆弾を解除してまわっているが、捌ききれていないのが現状。私たちがこの場にいる組織の幹部と対峙するしかない。いつ爆破するかもわからないのだ。各国の要人が集まっているこの会場を木っ端みじんにすることでフリーゲルの台頭を宣言するらしいが…。
「とりあえず私の指示に従ってください。まずは反対の席にいた黒服たちを叩きます。」
「見たところ幹部のように見えるけど…。」
「彼らは少し上の階級ですが大した地位じゃありません。所詮小物ですよ。」
「ふーん?随分と詳しいわね。」
「その話は後ほど。それでは行きましょう。」
風のように舞い、さっきまで反対側にいた黒服の男たちに近付く。
「なんだお前…。」
「ふん!」
一言目を言い終わる前に男が崩れ落ちた。拳がみぞおちに食い込んでいる。
「あなたたち、悪いことをしているんでしょう?怪盗フィアットが成敗してあげるわ。」
うろたえる男たちを次々と仕留めていく。
「…やはりあなたを選んで正解だった。」
「…何か言ったかしら?」
水上アクアが何かつぶやいたようだがよく聞こえなかった。
「あなたが強いという私の勘があたって良かったと思っただけです。そうそう、この後紹介したい人がいるのですが。」
「そんなことより組織の上の人はどこにいるの?会場はまだ安全じゃないでしょう?」
「爆破のことならもう大丈夫です。私が止めておきました。」
どういうことなのか。
「説明して。あなた組織のこと詳しいようだけど、いったい何者なの?」
「この事件はまだ終わっていませんがまあいいでしょう。説明いたしましょう。」
建物を出て、水上アクアは語りだした。彼?彼女?は、かつて組織の中枢の人間で、内部状況に詳しいのだと。そして今回組織の下部が、身勝手なテロを起こそうとしていたことを突き止めた。世界を大混乱に陥れる今回の計画は個人的に見過ごせなかったため、会場へ入り自ら対峙しようとしたらしい。
「それに、組織から取り返さないといけないものもあったしな…。」
「…?それってな…」
言いかけたところ、近づいて来る人影が。
「久しぶり~!アクア。元気してた?そして初めまして!水上イリスです♡」
長い水色の髪を揺らしながら大胆不敵に近づいてきた少女は、開口一番そう名乗った。
「あなたの知り合いかしら?」
「イリスは私のかけがえのない家族さ。彼女は私が抜けた後も組織に属して潜入活動をしていたんだ。私と合わせて裏社会の均衡を保つために活動しているのさ。」
なるほど、どうやら私たち怪盗フィアットのようにアクアとイリスで犯罪組織の動きを探り、抑止活動を行っているようだ。フリーゲル出身なのにそんなことをしている目的は何なんだろうか。
「ところでぇ~、警察の爆弾解体は一区切りついたらしいんだけどぉ、フリーゲルの幹部がここにきてるらしいのよぉ~。対峙するの嫌だから帰ろぉよぉ~。」
そこへ近づいてきた。長い日本刀を手にした巨体の男が。
「おお、アクアとイリスじゃないか。こんなところで何してるんだ?」
「あなたを待っていたのよ。ねぇ、フリーゲルなんてやめて組織改革のための新たな巨大組織をつくらない?あそこはもう内部崩壊まっしぐらでしょう?」
「なかなか情報を得ているようだな。確かに俺は最近のやりかたに疑問を持っている。組織への不信感もな。だが、世話になった節もあるし正直悩む…。が、まあいいか。お前たちへの信頼は厚い。俺はついていくことにする。今回の仕上げの役目も放り出してついていくとしよう。」
なんだ、フリーゲルはぼろぼろなのか?それともノリの良い人たちが集まっているのか。目の前で何が起こっているのかよく分からなかった。
「ところでそこのお前、何者だ?一般人ではないな。見えるぞ、その隠し切れない闘志。なかなかやりおるではないか。」
「私は怪盗フィアットよ。今回アクアと手を組んでいたけれど、あなたたちの素性は謎のまま。信頼は一時的なものよ。そろそろ事件も幕を閉じそうだし、帰っていいかしら。」
「怪盗フィアットか。有名人だな。そのうちまた関わることもあるだろう。達者でな。」
「今回は世話になったわね。私たちはこれから組織で培った経験を活かして、犯罪撲滅を目指していくわ。怪盗フィアットも悪を許さないんでしょう?目的は似ているのかもね。」
「そうかしらね。また機会があったらよろしくとだけ言っておくわ。」
「ふふっ。またすぐ会うことになると思うけれども。」
そう言い残して3人は帰っていった。私も会場を後にする。とりあえず、今回の事件はフリーゲルの下っ端が何かやらかしたもので被害はなく、解決できたようで何より。ちょっと物足りない感じもするけれど。
プルルルル
「もしもし、あぁ警部。大丈夫です。上手く収まりましたよ。はい、では私は帰りますんで。はーい。」
さて、私は奏の特製飛行器具でひとっとびで帰ります。
「奏、帰るわね。今回もありがと。」
「アクアとやらに振り回された感が否めないがまあ、事件が無事解決できてよかったな。」
「ええ、ほんと。」
しかし、何か忘れているような…。
「あああああああ!!!」
「!?どうした。」
「明日提出のレポート3000字、まだやってなああああいいい!!!」
紅に染まる夕暮れの空に、花蓮の悲鳴が響き渡る中、暗い闇が迫るのであった。