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第三十話 魔王との日々

「やっほー元気?」


 翌朝彼女は元気に私の部屋を訪問した。


「元気なわけないじゃ無いですか」

「ああ、そっか。あなた囚われの身だもんね」

「……」


 そうだ、私は囚われの身だ。なぜか拘束されていないが、私の命は魔王が背負っている。その事実を再確認すると嫌な気分になる。一番嫌いな人が私の命を握って言うという事実が。


「それで私は散歩がしたいです。よって外に出ましょう」

「は?」


 思わず脳内に疑問符が生じる。そんなもの行きたくない。


「は? とはなんですか。付き合ってくださいよ」

「はあ……」


 魔王が私に向けて手を向けてきたので、仕方なく、外に出る。




「ねえ、見て! たくさんの人間がいるよ!」

「そうですね」


 この人は不思議だ。何故私を殺さずに拘束もせずに外に出してるのだろう。

 私は他の人が拘束されているのをたくさん見た。私も例外では無いはずだ。なのに何故なのだろう。

 どちらにしろ、怒りが風化することはないのだが。


「見てよ。これ。すごくない?」

「そうですね」


 と彼女は絵を見ながら笑って私に言う。本当にこいつは私の兄を残虐に殺した人とは思えない。


「そうですねだけ? もっと感想言ってよー」

「はい、凄いですね」

「もっと感情込めて!」


 曰く、魔王はそれ相応の年らしい。だが、こんなに子どもっぽい感じだったのか? 我々人間が苦しめられてた相手はこんな子どもっぽい性格だったのか?


「凄いです!」


 とりあえず、魔王の機嫌を取るために感情を込めて言う。彼女曰く魔王は倫理観が崩壊していると。ということは機嫌を損ねたら殺される恐れがある。私自身一度死んだ身だが、それでも死ぬのは怖い。


「分かってくれたら良いの!」


 そう言って頭を撫でてくる。とりあえず満足気な顔をしとけば良いのだろう。


「今日のプランはこれから演劇を観に行きます!」

「演劇?」

「そうですね! あのセブニイ劇団です!」


 セブニイ劇団……聞いたことが無い。ここは人間の国だから恐らく人間が演じるんだろうけど、概要が分からない。私は演劇には興味がないのだ。


「まあすぐ近くだから」

「はい、分かりました」


 そう言えば昨日のあの言葉が気になってくる。殺すと言っておけばいいの、あれはどういう意味だったのだろうか……そんな感じのことを言わすのであればこんなVIPみたいな扱いじゃなく、奴隷のような扱いをした方がいい。私はされたくないけど。


 現に今拘束具や、首枷すら無いのだ。そりゃあこいつからは逃げられないとは思うが、あまりにも自由すぎる。今でもこいつは殺したいぐらいだが、今行動を起こすのは危険だと思う。それをこいつが分かっているということなのか……



「席はここね!」


 そこにある席は舞台から遠い、所謂一番悪いG席と言われるところだった。魔王の権力なら一番いいS席に座れるのでは無いのだろうか。やはりこいつのことがわからない。


「面白いみたいだから瞬きせずに観るのよ!」

「分かりました」


 と、私は膝の上に手を置く。


「まだ始まるまで時間あるけど」


 そうだったのかと少しだけだらけた感じにする。


「うふ、面白いね」


 面白いか……私はただ恐怖と懐疑心と不思議を感じてこうしてるだけなんだけど……。


「ねえあなたはどんな風な人生を送ってきたの?」


 答えたくはないし、これを答えてしまったら私の恨みもよくわからない形になってしまう。だが、答えないのもなしだ、今私は奴隷という形だ。だけど、私は……


「交換条件です。私が話したらあなたも教えてください。なんでこんな性格になったのか」


 攻めすぎかもしれない。ただ、私はいつまでもこいつのおもちゃになんてなりたくない。せめてもの反抗だ。


「自分の立場をわかって話してる? 私はいつでもあなたに拘束具をつけることもできるし、こうやって殺すこともできるのよ」


 そう言って首元に微量なエネルギーを当ててきた。でも!


「私はそんな脅しには屈しない。それに私が今死ねばあなたは演劇を一人で見ることになる。それでもいいの?」

「いったじゃん私は倫理観が壊れているって。今更一人で見たところで何も変わらない」

「ならなぜ私をここに連れてきたの?」

「それはただの暇つぶし。こう最強になると、大体のことはわかるのよ。あなたはレベル一〇〇でゲームをプレイしたことある? そこら辺の盗賊も、主人公の因縁の敵も、魔王も、大魔王も、破壊神もみんな瞬殺できるの、それが現実に起きたらどうなる?」

「……最強?」

「違う……答えは暇になる。人生の普通の適語とはもうしょうもないことなの。だから魔王にしかできないこともやる。てかこれあなたが知りたいこと?」

「まあ半分は」

「でもあなたの読みはあってる。あなたを生かしたのは暇になるのが嫌だったからだもん。私はあなたを殺せない。安心して!」


 そんなことを言われても困る。真に恐れているのは死ではなくてそのあなたの性格なのだから。


「まあ難しい話はおしまい。そろそろ始まるわ」

「そうですね」

「じゃあ、次はそっちの番、教えて?」

「……私の名前はリリシアで、私は貧しい農家で三人兄弟の末っ子として生まれました。貧しいながらに幸せだった。皆で笑いあいながら暮らしていた。でも、ある時魔王軍が攻めてきたときに、迫ってくる魔物の手により、どんどん知り合いが殺された。そして、私の兄は殺され、もう一人の兄は魔物を引き連れて囮になって逃げました。そして、結局、死体がバラバラにされて殺されました。あなたが殺したんです」


 そう、私が魔王を恨んでいる理由を伝えた。こいつが来なかったら、私達は家族そろって、平和に生きれてたんだ。


「そう、それがあなたが私を恨む理由絵。だけど、それはただの災厄に襲われたとでも思ってくれればいいわ」

「……やっぱり私はあなたが嫌いです」

「ははは、言うと思った」


 そして演劇が始まった。演劇自体は面白い。生き生きとしてたし。それを隣の人がどう思っていたのかは知らなのだけれど。


「貴様、我が軍を捨て、ウランダ軍に行くというのか?」

「ああ、お前たちの理想はつまらん。世界統一、そんなぐ足らない理想をかがけている軍には未来なんてねえ。俺はさっさと裏切らせてもらうぜ」

「おい、待てよ、おい!」


 物語の見せ場っぽい感じのシーンが出てきた。確かにこいつの言う通り面白い。すこし癪だけど結構熱中してみてしまった。


「ねえ、面白かったでしょ」

「まあ、面白かったですけど」


 癪なので、少しひねくれてみる。いくらこいつが私に恩を売ったって、敵なのは変わらない。


「でしょでしょ!」

「うん」


 そして劇場から出る。


「今日のイベントはこれで最後かなー。帰ろっか」

「そうですね」


 もう終わりか……案外短かったな。


 そして魔王城へと帰還した。


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