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第2話 王宮

「この国のことを教えてやろう」


 そう、王宮に向かう道の途中で、色々と教えられた。この国はアルセン アリゲルドによって建国され、三代目のルグリア アリゲルドの時にはアース帝国により滅亡寸前まで追い込まれたが、四代目の君主、オルゲイ アリゲルドの時に、一連の騒動により弱体化したアース帝国を倒し、広大な領土を誇った。今は七代目の国王で、その領土は少しだけ小さくなってしまったが、今は戦争ではなく貿易で儲けているらしい。


 その長い話は一言に要約できる。

 この国は大きく、豊かであるということだ。

 まあそんなこと私にとってはどうでも良い。早く鳥になりたい、ただそれだけだ。


 そして、王座の間に通される。


「私はこの国の王である、アレグレア、アリゲルドだ。異世界人殿、話をしたい」

「私は荒坂詩音です」


 自己紹介をする。異世界人殿なんて言う呼び方は嫌いだからだ。私には私の名前があるのに、なんでそんな名前で呼ばれなくてはならないのだろうか。

 と言うか、まあこの場にいることが既に面倒くさい。王様なんて本当にどうでもいいのだ。


「詩音どの、この国に起こるであろう未曾有の危機を救ってくだされ」

「はい?」

「実は今、とある組織が暗躍しており、千年前に封印されし破壊神、ヤキラグマーダを復活させようとしているらしいのです。それでその復活を阻止してもらいたいわけなのです」


 はあ、面倒くさい。私は飛びたいだけなのに。それを防いで私に何の意味があるのだろうか。


「報酬とかは?」


 さすがに報酬なしでは動きたくはない。報酬あっても働きたくはないけど。私バイトとかも面倒くさくてしてなかったし。


「ああ、王座とか、実現が難しい物以外ならあげますよ」

「私は翼が欲しいの。それはいける?」

「難しいですね」

「そうですか……ならいいです……」


 そして私は立ち去ろうとする。ならこの世界にも、もう興味は無い。もう一度死ぬだけだ。


「おい、なにを!」


 そばにいた兵士から剣を無理矢理奪った。異世界人補正というやつなのか、簡単に剣を奪えた。私は本来そんな兵士から剣を奪える様な力はないはずなのだ。運動苦手だし。


「えい!」


 そしてそれを私の体に突き刺す。すると、腹のあたりから血がどんどんと流れ出す。


「詩音殿!」


 王様は叫び、私の体には激痛が走る。痛いけど幸せだ。ああ、これで次こそは鳥に……


「え?」


 激痛に襲われているのには変わりがない。だが、死んでいない。それどころかもう傷が治り始めている、痛いのには変わりないのにだ。お腹をおさすってみるが、そこには何の切れ目もなくきれいな肌がただ存在しているだけだった。

 周りには大量の血が流れているが、私は死んでいない。それどころか、死ぬ気配すらない。

 どう考えてもこの状況で言える答えは一つだけ、そう最悪な答えだ。私はその事実を認めたくはないのだが、どうやら認めるしかないようだ。



 そう私は……私は不死身の体になってしまったのだ。


「詩音殿大丈夫ですか?」

「は、はい」


 私は激痛が走るのを堪えて、なんとか立ち上がる。痛いのは体もだが、心もだ。大丈夫な訳がない。今の瞬間、私の夢がつい果てたのだから。


「先程は何をなされてたんですか?」

「死のうとしてたんですよ。飛べない世界に未練なんて無いので」


 何を答えのわかりきっていることを。


「それはいけませんね。あなたには異世界人としての役目を果たしてもらわないと行けないのですから」


 私の心配はしないのか?


「ということは、その役目を果たしたら死ねるというわけですね」


 役目があるということは、役目を果たしたらこの世界に私はいらなくなる。つまり死ねるという原理だ。


「そういうことになりますね」

「そうですか、なら行ってきます」

「いや、部下を連れて行きなさい。少しは役に立つでしょう」


 そう、偉そうな装束の男が言った。将軍? 騎士団長? 役職名が分からないが、恐らくそんな感じの人だろう。


「いりません。今は人と話したくない気分なので」


でも、いらない。余計なお世話。

 そして私は歩き出す。


「組織はあの森の奥にあります。きおつけてくだされ!!」


 返事もせずにそのままその組織の場所に向かって歩き出した。そして街から出て、言っていた森の方向に向かう。


「はあ、しんどかった」


 私は愚痴をこぼす。あんなに息苦しい場所はなかった。


「私、死んだはずだよね。なんで生きてるの? てか、なんで私に役割が与えられたの? なんで鳥になれないの? 私はただ、死んで鳥に生まれ変わりたかっただけ、そういう役割は異世界転生とかに憧れてるどっかの男子高校生にでもやらせたらいいじゃない。本当おかしい。神様本当恨む」


 私は自分の感情を吐き出した。いや、これが全てじゃないはずだ。言語化出来ないだけでもっと言いたいことはある。


「はあ、まずは倒しに行くか」


 気は乗らない。ただ、こうするしか無いのは事実だ。やらなければ何も始まらない。


 一人でどんどん歩いていく。なんの目的も無い、ワクワクもしない、ただのつまらない一人旅だ。ご褒美がないといったら嘘になる。死というご褒美がある。だが、それじゃあ足りない。元々私は病院の窓から飛び降りて、死んでたからだ。それを神様(仮)がこの世界に送っただけだ。


「ここに何をしに来た?」


 早速怪しそうな人が来た。私が向かっていた方向は合っていたらしい。


「死ぬために!」

「なるほどな、死ね! てか、え?」


 あちら側としてはまさかの返しだったようだ。まあいいけど。

 そして気を取り直して早速攻撃して来た。だが、私には異世界補正がある! すぐに殺してやる。



「あれ?」


 瞬殺され、なすすべなく捕えられてしまった。こんなはずじゃあなかったのに。

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