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ザ・エンド、先手必勝

作者: なつ きたる

 普段なにかと眼を酷使されている方は、眼を閉じリラックスされ音声でお楽しみ頂くと一味違うかと拝察します。

あらすじ 


 広い宇宙の彼方、ある星のお伽噺。そこには知能の発達したひとつの生物種がいた。暮らしは豊かだが、数千の「グル(Gr)」という集団が群雄割拠し、エゴイズムと疑心暗鬼による利害対立から争いの火種が絶えなかった。ある日、一つのグルが新兵器を開発。ニックネームは「エンド」。使用したら星全体が破滅する最終兵器で「エンドによるエンドの抑止理論」が一世を風靡し、エンドを保有することが身を守る唯一の手段と思い込まれた。情報漏洩によりエンドは星じゅうに拡散。さて、その星の運命や如何に?


 (作者より) なお、本作品はNovel Daysにも投稿しております。日頃何かと眼を酷使されている方は、目を閉じて音声でお楽しみください。ひと味違うかも知れません。約14分です。


1、相変わらず 


 広大な宇宙の遥か彼方、様々な生命が栄える、とある星のお伽噺です。


 その中の抜群に知能が発達した生物種がひとつ。その名はアイ。アイは科学技術を高度に発達させ、暮らしぶりは極めて豊かで便利だったが、個々のアイが集まって作ったグル(Gr)という名称の集団が数千あり、群雄割拠し、エゴイズムと疑心暗鬼による利害対立は遥か昔から相変わらずで、至る所に争いの火種は絶えなかった。


 グルはそれぞれ、より強力な兵器の開発を競っていた。そんなある日、一つのグルがそれまでは最強だった核兵器を凌駕する破壊力を持つ新兵器を開発した。その兵器のニックネームは「エンド」。そしてこれは使用されたら星全体が破滅する最終兵器、エンド保有グル同士がエンドを互いに使用するということはともに破滅に至ることとみられた。既にあった「核による核の抑止理論」もどきに「エンドによるエンドの抑止理論」が一世を風靡した。要するにエンドを自前で保有することが身を守る唯一の手段という思い込みだ。発達した科学と止めどなく繰り返される情報漏洩によりエンドの製造方法その他の関連情報は拡散し、一定の技術力のあるグルなら比較的たやすくエンドを製造・保有できた。


 星じゅうのグルが集まった協議体であるユナイテッド グルス(United Grs、略してUG)は、グルのエンド保有願望を抑止することはもとより調整することもできず、時間の経過とともに保有グルは増加の一途をたどった。大グルから小グルまでもエンドを保有する状況が生まれた。それにより破滅への予感はリアルな恐怖を醸成した。軍事研究者の中には、エンドによる先制攻撃を受けた側は反撃に失敗すれば生存率1パーセント以下つまりほぼ絶滅し、もし有効に反撃できた場合でも双方の生存率は3パーセント以下などという研究結果を発表して危機感を煽るものもあった。


 グルの持つ生来のエゴイズムは遺憾ともし難く、UGは、エンド保有を規制することはとても無理との判断により見切りをつけた。そこで次善の策として、エンドの先制攻撃を星じゅうのグル間に平等に禁止する条約を提案することにした。この条約は「エンド先制攻撃禁止条約」(END Preemptive Attack ban Treaty、略してEPAT)と呼ばれた。その遵守を明確に義務化し、履行状態をUGが厳格に常時監視することにより、グルのエゴイズムによる全体破滅的な戦争の勃発を抑止する効果の実効性を少しでも高めようという発想だ。やがて、このアイデアはUG総会で可決されて実現することとなった。当初は、何が何でも独自路線を堅持すると声高に叫び、頑固に批准に反対するグルもいくつかあったが、エンドが一斉に使用されたら星全体が破滅状態になるという現実認識が共有されるにつれて、数年後にはすべてのグルがEPATを批准するに至った。また、エンドの製造にはレアメタルXが必要で、苛烈な製造競争の結果、その星じゅうの埋蔵分を全部使い果たしてしまっていたので、新規の製造は事実上いかなるグルにも不可能になっていた。その星ではエンドの製造量は飽和状態となっていた。


2、批准の効果


 EPATに基づき、エンドの状況を常に監視するためのWアラームという監視システムがUGの科学技術部門により開発された。

 批准したグルにはWアラームの設置とUGの専門部門による監視システムの定期監査、そして必要な場合の特別監査が義務付けられた。もし、UGに無断でWアラームを無効にする等の変更を加えてエンドの先制的な使用を企てた場合はEPAT違反となり、それに対する罰則も設けられた。その罰則の内容は簡単に言えば「星の全体的な破滅を防止するため、そのエンドはUGにより即座に破棄される。違反者は罰に服しそれを受容しなければならない。」というものだった。

 このシステムが完成してから10年以上が経過すると、EPATは厳格に遵守されていることが星じゅうに認められた。エンドの先制攻撃を受ける可能性は極めて低くなったとの認識も一部には広まり、エンドの高額な維持管理コストの削減を目的にエンド所有を廃棄するグルも徐々に出始めた。廃棄されたエンドの再利用はレアメタルXの劣化により不可能であった。


3、戦争は起きた


 エンド保有グルは減少していったが、ある時、独裁的な政権のグルの一つが、自分の隣のグルに自分の思い通りにならない政権が発足したことに不満を抱き、両グルの境界線付近で演習を実施しながら、宣戦布告なくそのまま隣グル領に攻め込んでいった。

 隣グル内はひどく荒廃させられ、難民は数百万、死者は数万に達した。この戦争は他のグル領域への侵入とみなされたので、多くのグルが隣グルを支援した。一方で、利害関係から侵入グルとの友好関係を維持したいグルもあり、それらは侵入戦争への表向きの支援は控えた。侵入から一年もたたないうちに戦争は膠着状態になり、侵入された隣グルでは兵士以外の死者は数十万、兵士の死者は双方ともに数万となった。侵入グルの兵士の戦死数は15年前に、ある遠隔地のグルに侵入してからの占領期間10年間に失った数に達していた。それでも独裁的な政権は内外に向けて、その数を10分の1以下にして発表することで自グルの優勢を誇示しようとした。



4. 最終兵器の発動


 戦争は続き、両グルの被害は増大し、星じゅうの経済は大混乱していた。独裁的な政権による情報統制と侵入グル内における弾圧を頼みにしての沈黙と服従の強制にも、軋みと限界がみられ始めた。


 独裁的な政権は、戦争による勝利の実感を得る為にはエンドを使った先制攻撃により、星の規模で早急に反対勢力を打倒して沈黙させるのが最速の手段であるとの結論に達していた。実のところ独裁的な政権内部ではこの事態を早くから想定していて、その科学部門ではWアラームシステムを密かに解析し、UGに悟られずに無効化できるとする自信満々の奇襲攻撃プログラムを開発していた。今回は早速これを戦いに投入して戦局を有利に展開することにした。


 侵入グルのスタッフたちは自信たっぷりに言った。


「我々はグルの中のグル、最優秀な選ばれたグルなのです。古来より優秀な兵法書によると、先手こそ必勝の定石と申します。これには騙し討ちで狡いなどというような子供の戯言は通用しません。隙のある甘い大人はつまりは弱者であり、間抜けです。自分の子供や仲間達ともども滅亡するのは、自己責任というもので自然の摂理なのであります。

 同様に間抜けなUGの担当が泡を食って我らのエンドを破壊に来た頃には、すべての反対勢力は、その破壊するはずだったエンドによって反撃も出来ずに星から殲滅済になっています。これが本当のザ・エンドかと。ウワッハ ミーハッハー 敬礼 ❗️」


と胸を張った。


 それを聞いた侵入グルのリーダーは七色に輝く華麗な四つの眼をキラキラと輝かせ、筋骨隆々とした六本の手足をブルッブルルと震わせ、長い二枚舌をペロペロと伸縮して、よだれを垂らしながらニヤッと薄笑いを浮かべた。


 「そのとおりだヨネー、フツーに戦争の結果は、大人の自己責任だよネー、キャッホー ミーハー!」


と、優越感溢れる物知り顔をしながら愉快そうに攻撃の即時実行を指示した。


 かくして、エンドによる先制攻撃は実行されることとなった。侵入グルの敵対勢力は、このEPAT違反などものともしない獰猛な不意打ち攻撃により、反撃するいとまもなくアッという間に撃破され、宇宙から綺麗さっぱりと消滅するであろうことになった


5、ザ・エンド、罰則の適用


 その星のあらゆる報道機関は臨時ニュースを流した。ところが、その内容は侵入グル内の各地で原因不明の激しい崩壊が生じており、大混乱になっているというものだった。当初、状況や原因がよくわからないので、これを、未知の自然現象や侵入グルの敵対グルによる一斉奇襲攻撃があったらしいと伝えたメディアもあったほどだ。


 間もなくUGから次のような公式の説明があった。


 「UGとしてはEPATの運用開始に際して、先手必勝とか勝てば官軍とかの適当な理屈をつけて、条約違反のエンド先制攻撃をしようとするグルが必ず出てくる、という前提をおいていた。

 エンドの使用は結果的にこの星に致命的な破壊をもたらす。これを未然に防ぐために、もし何処かのエンド保有グルが必勝狙いの先制攻撃を行おうと、Wアラームに何らかの改造や変更を加えた場合は、条約違反に該当して処罰規定の適用が必要になる。非常事態であり緊急避難としての即時の対応が求められる。

 このことから、その後実際にエンド先制攻撃指示を発したならば、そのグルのエンドを全て即座に破壊する処罰用のプログラムDを瞬時に自動的に生成して対処することのできる監理用のプログラムAを開発してWアラームに事前にインストールしておくにはどうするかという課題を設定し、そのアルゴリズムを様々に検討した。

 その結果、現時点での最適解を発見、それに基づくプログラムAをUGの科学技術部門により開発・製造して、全てのWアラームにインストールした。プログラムDは平常時には存在せず、事前にプログラムAを解析して検出・改ざんしようとしても現時点の技術では手をつけることはもとより見ることすらできないようになっている。」


 こうしてUG(United Grs)のIT技術の成果が功を奏し、侵入グル保有のエンドはEPATに定められた罰則手順に従って速やかに完全に星からデリートされたのだった。


 これが本当の、ザ・エンド、かな?


 おかげで、その星に暫くの間は平和な時代が続いたそうです。

 

 めでたし、めでたし。


 その後、侵入グルの当事者が大人の責任をどうしたかは、読者のご想像にお任せします。

         

      〈終り〉



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