第6話 「誕生日」
白い息が出る季節になった。
世間はクリスマスに向けてイルミネーションや装飾で賑わっていた。
そんな中、私たちはとある映画を見に来ていた。
なんとホラー映画だ。初デートに焼肉で初映画はホラー。
中々ないデートかもしれない。
発端は私だった。怖がりなくせにホラーが大好きな私は、神木くんについてきてもらっていた。
神木くんはホラー体制が強いらしく余裕らしい。
ポップコーンとジュースも購入して準備万端だ。
席に着き、始まるまでポップコーンを食べたり小声で話していた。
ついに暗転し、映画が始まる。
私は怖くて仕方がなかったけれど、隣を見ると神木くんは平気そうにポップコーンを食べていた。
(本当に平気なんだ…)
神木くんが男らしく見えていた。
ところがそんな姿を覆す事件が起こる。
映画の途中、急に神木くんがゴソゴソし始める。
そしてスマホを取り出し、なにやらSNSを見ているようだった。
(まじか)
マナーに厳しい私にとって完全にNGな行動をとっている。
私はすぐに注意をした。
「それ、電源落そうか」
小声で言うと神木くんは素直に応じた。
それからは映画の内容が全く入ってこない。
(どうする私!)
と頭の中で議論が始まっていた。
映画が終わり、外に出る。
「怖くなさそうだったね」
『物語が退屈でスマホみちゃいました』
なんということでしょう
もう我慢できない。うん。そうだ。言っちゃおう。
「あのさ、映画退屈だったのはいいけどスマホ見ちゃ駄目だよね。周りの人の迷惑になるの知ってる?私そういうマナーが守れない人は嫌だ。」
そういうと、神木くんは「ごめんなさい」といって落ち込んでいた。
「もうしません!」そう言う神木くんに私はとどめの一言を伝える。
「大丈夫。もう映画館行かないから。これからは家で見ることにしよう。」
そういうと神木くんは困った顔をしていた。
極端かもしれないけれど、家の方がゆっくりできるし、私も切り替えることにした。
映画の料金も高くなってきているし、頻繁に見に行くわけでもない私たちにはそこまでダメージはないけれど、マナーの面で彼氏に不安を感じた瞬間だった。
数日が経ち、私たちにとって初めての誕生日がやってくる。
神木くんの誕生日。いったい何が欲しいのかなんて全くわからない。
実は私たちが付き合った日。こんな話もしていた。
”誕生日など記念日にサプライズはいらない”
”何が欲しいかは直接本人に聞くこと”
これは二人とも意見が一致していた。
ということで、神木くんに聞いてみた。
「誕生日どうする?何か予定ある?」
「僕の誕生日はプレゼントはいらないです。ただ一緒に過ごしてほしいです。」
なんて可愛いことを言うのだろうかと、私の心は射貫かれていた。
「もちろん!一緒に過ごすよ!じゃぁ、欲しい物があったら言ってね」
「わかりました。」
なんと合理的な会話なのだろうか。
神木くんは「特に行きたいところはないのでプランとか考えなくてもいいですよ?」と言っていた。どうしようかと考えに考えた。
そして辿り着いた答えは、家でまったり誕生日会だった。
外食してDVDみてイチャイチャしといたらええんちゃうの?ってやつです。
誕生日前夜。
我が家にお泊りの神木くん。
最寄り駅まで迎えに行きそのまま夜ごはんは近くのイタリアンへ。
まったり話しながら食事を終え、思ったよりもほろ酔いの神木くんが出来上がっていた。
のんびり散歩がてら歩いて家に向かっていた。
その道中で甘い物が苦手な神木くんと一緒にケーキ屋さんに行ってケーキを買うことにする。
もちろんホールが良いけれど二人じゃ食べきれないこともあり、チーズケーキのカットを買うことにした。
ロウソクとプレートも一緒に。
帰宅して少しすると0時を過ぎていた。
ついに誕生日当日だ。
カットケーキの狭い範囲にロウソクを付けてお決まりの歌を歌った。
神木くんはすごく嬉しそうな顔をしている。
「皆見さん、本当にありがとうございます。僕と付き合ってくれて幸せです。」
どうして君はそうやって素直に伝えてくれるのだろうかと思わずハグをしてしまう。
「こちらこそ、ありがとう」
そう言って…
翌日、2連泊予定の神木くんと近所のお店を開拓することに。
「そういえばすぐ近くにラーメン屋あるのわかる?あそこ多分、美味しいと思う!」
私の一言で、お昼ご飯はラーメンになった。
いざ行ってみるとお客さんが一人もいない…不安になる二人。
店主一人で切り盛りしているようだった。
『本当に美味しいのかな?』
神木くんが小声で話してくる。
『匂いはおいしそうだったから…たぶん…』
苦笑いの二人。
そしてテーブルに運ばれてきたラーメン二つ。
うん。見た目は普通だ。大丈夫かもしれない!
「いただきまーす」
不安げな二人の頂きます。その不安は見事的中してしまう。
『皆見さん、やばいです。びっくりするほど美味しくないです』
そう言って神木くんは笑っていた。
私も想像以上に不味すぎて笑いが止まらなかった。
でも一生懸命作ってくれた店主さんのために頑張って食べる二人。
驚くほど手が進まない。動かない。
頑張ったけれど二人に限界が来てしまう。
『皆見さん、もうやめておきましょう。これは残した方がいいです』
少し笑いながら話してくる神木くん。
私ももう無理だった。これ以上食べるとリバース確定だ。
『よし…出よう!』
お金を払い店主さんに「残しちゃってすみません」と言って私たちは店を出て行った。
家に帰ると「まずかったね~!」と笑っていた。
何を入れたらあの味になるのかと。神木くんは分析しようとしていてそんな姿も面白かった。
「誕生日なのにごめんね」
とういうと「楽しい思い出になったので大丈夫ですよ」と言ってくれた。
こうして私たちの初誕生日は終わりを迎えた。
もちろん、夜ご飯は美味しい物を食べることになった。




