第4話 「11月11日」
「え?」
一体何が起きたのかわからなかった。
「どういうこと?いま好きって言った?」
「はい。好きです。」
「これは告白?」
「そうです。」
「…電話で?」
「はい…」
昭和女は電話で告白されたことがないから戸惑っていた。
気持ちを伝える時は直接するものだと思っているような古い考えなのだ。
そもそもどこで好きになったのかも…頭の整理をしようとフル回転していた。
「ちょ…ちょっと待って、私はてっきり神木くんはなっちゃんが好きなのだと…え?どこで?」
告白してくれた人にこんなことを言う人はいるのだろうかと思うほど質問していた。
「最初から可愛らしい方だなと思ってたんですけど話していくうちにもっと好きになりました」
「でもまだお互い何も知らないよ?」
「付き合ってから知る楽しみもあるんじゃないかなと…」
「まぁ…たし…かに…」
若者の考えについていけないけれど頑張ろうとする。
そして私にとって神木くんと付き合えない最大の難関があった。
「神木くんってタバコ吸うよね?」
「はい」
「私ね、両親がヘビースモーカーで子供の頃からタバコが嫌いなんだ。友達なら遊ぶ時だけだから大丈夫なんだけど、彼氏とかは吸わない人としか付き合えなくてさ。それに一緒に過ごすなら少しでも長生きしてほしくて…」
「タバコ辞めます」
話を遮るぐらい即答する神木くんに戸惑う。
「本当に辞められる?両親を見てるからタバコは簡単に辞められないのも知ってるよ?」
「辞めます…一旦、電子タバコからでもいいですか?」
「んー…少し考える時間もらっても大丈夫?」
こう答えるしかなかった。急すぎて冷静に判断ができそうにない。ちゃんと考えたかった。
「わかりました。待ってます」
「ありがとう。とりあえず職場では普通にいつも通りやっていこう」
そう言って神木くんと電話を終え、私はいろんなことを考えた。
バツイチ三十路で結婚願望はもうない。それに、一から恋愛するのもちょっとめんどくさい。初めての年下だが好意をいただいている。なにより告白されて嬉しい気持ちはある。実は付き合ってみたいなーとも思っていた。でもタバコはどうする?辞められなかったら?もし彼に結婚願望があったら?…他にもいろいろ考えていた。
“年を重ねると好きだけでは付き合えなくなる”とはこの事かと思った瞬間だった。
翌日職場に行くと神木くんはいつも通りだった。
むしろ私の方が普通じゃなくなっている。完全に意識しているのだ。
なっちゃんからも不審がられていた。
そして私はどうするべきかわからず、顔も本名も知らない10年以上仲が良いゲーム仲間「ロン」に相談した。するとロンは言った。
「直接も電話も気持ちは同じだろ?そこはどっちでも良くてハルがどうしたいかでしょ」
どうやら私は考えすぎていたのかもしれない。
続けてロンは言ってきた。
「せっかくちゃんと告ってくれたのに待たせすぎるな。早く返事しないと向こうも毎日不安なまま過ごすことになるだろ」
心から同意してしまった。
そして一つの答えにたどり着いた。
「付き合ってみてダメだったら仕方ないか」
あまり深く考えずに今を大切に過ごしていこうと思った。
結局は付き合ってみないとわからないのだから。
それに私は神木くんをもっと知りたいと思っていることは事実だ。
神木くんを待たせて2日。意を決して神木くんに電話した。
「えと…お待たせしてごめんね。」
「いえ。大丈夫です。」
「あの…ちゃんと考えました。結果は…よろしくお願いします!」
そう伝えるとガッツポーズをしているような音と共に「やったぁ…!」と小さい声が聞こえていた。
「あ!ありがとうございます!」
「こちらこそ、ありがとうです」
そういって二人は微笑みあった。
「もしかしてガッツポーズした?」
「え!あ!…バレました?」
「うんwなんかそんな音が聞こえたw」
緊張したのは最初だけで、気づけばいつも通りの会話に戻っていた。
違うことはお互い笑顔が増えたことかもしれない。
11月11日。晴れて私たちは恋人関係になった。
翌日職場へ行き、なっちゃんにだけ報告した。
するとなっちゃんは嬉しそうな顔で祝福してくれた。
そして焼肉は二人で行くように言われてしまった。
まさかの初デートは焼肉になりそうだ。