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マスコット  作者: 美鈴
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第3話 「やりとり」

仕事に行くとなっちゃんが焼肉の話をしてきた。

予想通り、冗談が現実になったようだ。

私たちの方が年上ということもあって、さすがに奢ってもらうのは気が引けるらしく戸惑っているようだった。

「てことで、神木くんの連絡先交換しといてね!」

「え!私が!?」

「うん。だって私、彼氏いるし」

こういう時だけ彼氏を出してくるのはズルイ。

それに連絡先を自分から聞いたことがない私にとって、かなりハードなミッションになる。

とりあえずラインの交換をスマートに聞こう。そう。スマートに…

そう思いながら神木くんが一人になるタイミングを伺っていると1週間が経っていた。


シフトの関係上、焼肉まで1ヶ月あるからまだ大丈夫。

そう思っていると

「神木くんと交換した?」と、なっちゃんが思い出したように聞いてくる。

「いや、あのーそれが…」

「まだしてなかったの!?なんで!?」

「どう切り出していいのやら…経験がないもので…」

陰キャの私には、かなり難易度が高かった。

「わかった。じゃ紙にID書いて。私が渡してくる」

なっちゃんが救世主にしか見えなかった。

紙を託すとなっちゃんはそのまま神木くんのところへ向かって紙を渡し、すぐに戻ってきた。

時間にすると2分。

「渡してきたから、連絡くるとおもう」

「早っ!」

なっちゃんは少し呆れているようだった。

休憩に入るとメッセージが届いていた。しかも2件。神木くんからだった。

ーグループ作りました。参加しておいてください。

ーあ!「お疲れ様です」打ち忘れました!すみません。お疲れ様です。

文字でも礼儀正しい神木くん。

ーお疲れ様ー!りょうかい!ありがとう

シンプル イズ ザ 三十路。

その後、たわいもない会話が続いていた。

「何か困ったことがあったら言ってください」

これを誰にでも言っているのなら罪だ。

何人の女子が涙したのだろうかと思ってしまう。


ナインでやりとりをしているとお互いの共通点がいくつかあり、不思議と話を聞くだけで、その時の苦悩が痛いほど伝わっていた。特に家族に関することは、大人になった今でも心の傷が深かった。

気が合うのか不思議とお互いの深い話が自然にできていた。

どちらも否定や肯定をするわけでもなく、ただただ話を聞いていた。


ー僕は小さいころ父親から虐待を受けていました


ー酒飲んじゃ暴力振るってきて、大人になってからは無くなりましたけど飲酒後は絡まれて障害のことで説教されたり。ストレスで限界超えた時、解離性同一性障害を併発してしまって、一時期身に覚えのないことがあって大変でした。


ー母親も傍観者で僕の気持ちを分かってくれることは一度もありませんでした。


ー姉もいますが仲がいいとは言えないくらいです。お互い干渉しないので気にしていませんが。


ー小さいころ棋士になることが夢で目指していたことがありました。でも最後の試験で落ちてしまって年齢もあって諦めるしかなかったです。その時、父に言われました。”今までお前のわがままに付き合ったんだからこれからは俺の言うことを聞け”と。


ナインで会話するにはすごく難しくてすぐに返す言葉が出てこなかった。


ただ…

”生きててくれてありがとう”と、言いたかった。


ーなかなかラインだと文章だから伝わりにくいかもだけど、生きててくれてありがとう。私は神木くんに出会えてよかったと思ってる。髪の毛爆発してていつも癒されてますw


何が正解な答えかわからないけれど、私なりに思うことを伝えてみた。

送った後、髪の毛のこと書かないほうがよかったかなと少し不安になりながら返事を待っていると…

ー皆見さん!いま電話してもいいですか?

突然の電話予約が来た。

ーいま?wいいよー

そう送るとすぐに掛かってきた。

「もしもし?どしたー」

「いや、あの…ありがとうございます。ってちゃんと伝えたかったのと…」

「いえいえ、髪の毛のこと書かないほうがよかったかな?ってちょっと不安になってた」

電話越しに神木くんが笑っているのがわかる。

そして神木くんが何か言いたげな空気も伝わっていた。

「何かあった?」

「あの…」

「うん」

どのくらいの沈黙があっただろうか。

体感10秒くらいだろうか。

私は家族のことで何かあったのかと思いながらお茶を飲もうとしていた。

そして神木くんが口を開いた。


「皆見さんのことが好きです。僕と付き合ってください。」


私はお茶を飲む手が止まっていた。

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