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マスコット  作者: 美鈴
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第1話 「癒しのマスコット」

「ふぅー疲れた…」

つい独り言が出てしまう。

仕事、帰宅、寝るを繰り返す日々。

だけど結婚していた時よりは楽しく暮らしている。

特に今は時間に余裕もできて趣味のゲームに没頭している。

むしろゲームをするために働いているようなものだ。

それに最近は仕事に行く事が楽しくなっている。

なぜなら、気になる子がいるからだ。

気になると言っても【恋愛】的な感情ではなく、マスコットのような、なんだか気になる年下の男の子だ。

今まで年上としか付き合ったことがないから年下を恋愛として見たことがない。

前の夫も年上だった。

そんなこんなで見事離婚を迎え、子なし、バツイチ三十路女が完成した。


ロッカールームでマスコットを探す。

(はる)、おはよ!」

職場で唯一仲良くしている友達だ。

「なっちゃん知ってる?すごい髪の毛をした男の子」

「え?すごい髪の毛って」

「寝癖がすごいまま来てるみたいで、それが愛くるしくてさ」

「誰のこと言ってんのー?」

二人で周りを見渡していると

「おはようございます。」

と、会う人全員に挨拶をしながらロッカーに向かうターゲットが現れる。

「きたきた!あの子!」

「あぁ!神木くんか!」

「へぇー!神木くんって言うんだ」

「そそ、神木貴志(かみき たかし)くん。天然というか、ちょっと変わってる子だよ!」

「ほー!」

ついに名前を知ってしまった。

準備を済ませ現場に行く途中、

「細川さん、おはようございます」

と、神木くんがなっちゃんに声を掛けて来た。

今だ!と思い私は言ってしまう。

「あの…なんか、いつも髪の毛ボーン!ってなってますよね!」

「え?」

一瞬で時が止まった気がした。

「あ、全然悪い意味じゃなくて…なんというか、いつも髪の毛が爆発してるなーって思って!いい意味でね!」

上手くフォローしたつもりだ。

「それ…いい意味とかあるんですか?」

神木くんは微笑んでいた。

「自然体でいいなーって思います!」

そういうと神木くんは笑っていた。

これが初めての会話で不思議な気持ちになっていた。

例えるなら某有名アトラクション施設の推しキャラに会ったときのような、そんな気分だ。

それ以来、神木くんとは職場で顔を合わせる度に話す機会が増えていった。


休憩から戻るとき、エレベーターで神木くんと一緒になってしまう。

もちろん職場の人も数人乗っていた。

静まり返った密閉空間。階数の表示をみつめる人たちがいる中、一人の声が響き渡る。

「皆見さんって色白ですよね」

神木くんは明らかに私を見て言っている。

「急に?どうした?」

周りの人もクスクスと笑っていて恥ずかしい状況になる。

なぜ彼は、誰もが聞こえるこの場で言っているのか。

一つだけ確信したことがある。

彼はきっとチャラ男だ。

「え?神木くんって…チャラ男?」

「なんでそうなるんですか!本心ですよ。可愛いなぁって」

追い打ちをかけるかの如く返ってきた言葉に戸惑いながらも、何か返さないといけないこの状況。

言い方一つで多方面に誤解を招いてしまう。そう判断した私は

「惚れてまうやろぉ~~!」

と、某芸人の有名なセリフを言ってジョークに変えたのであった。

おかげでエレベーターの中は笑いの渦に包まれ、安堵する。

私も女だ。【可愛い】と言われて意識しないはずもない。

でも私は三十路で彼は27歳。3歳差。この差は三十路側からすると大きい。

この歳になると職場恋愛の一つや二つしたこともあり苦しんだ事もある。

そして、チャラ男に靡くほどの歳でもない。


こんな私にも職場でストレスを感じることがある。

それは通称【お局様】と称される人から嫌がらせを受けていることだ。

理由はただ一つ。【なんか気に食わない】…だと思う。

気に食わない要素一つ目「仕事を文句言わずにテキパキこなす事で周りに頼られる」こと。二つ目「お局様に媚びない」。そして最後の決定的な要素が「男性陣から気に入られている」ことだろう。

女社会ではよくある話だ。30にもなればある程度わかってくる。

これだけは言っておこう。私は決して可愛いわけではない。

ごくごく普通で田舎から上京した芋っ子だ。

自分では目立たない大人しい性格だと思っているのだが、周りからは「話しが面白いから目立つよね」と言われることが多い。だからなるべく職場では静かに過ごそうと努力しているものの目立つらしい。

きっとお局様に媚びれば大丈夫なのだろうけれど、私の性格上、人に媚びることが出来ない。

というより“したくない”が正解で、むしろ強い者に立ち向かってしまう厄介な性格なのだ。

自業自得と言われればそうかもしれないけれど、本音と違う行動が出来ない分、仕方がないと割り切って仕事に行くしかない。

嫌味を言われたら言い返せばいいのだろう。

しかし、それをすると余計めんどくさいことになりかねない。

でも言いたい。でも、でも、でも…と、自分の感情を抑えることでストレスが増えていた。

こんな時はマスコットの出番だ。

私は神木くんの姿を見たり、会話をしていつも癒されていた。


ある日、神木くんが欠勤していた。

あとから聞いた話によると、当日欠勤をしていたようだ。

毎日遅刻もせず、残業までやっていた神木くんが当欠したのは珍しく、少し心配だったけれど連絡先を知らないからどうすることもできなかった。


翌日、出勤するとなっちゃんが慌てた様子で近寄ってきた。

「神木くんの顔見た?」

話を聞くと、どうやら神木くんの顔に擦り傷があったらしい。

二人で話していると「おはようございます。」と声を掛けられる。

振り返ると、額と左頬に擦り傷がある神木くんが立っていた。

「どうしたの!?その傷!」

「……ちょっと自転車で転んじゃって」

「え?…自転車?」

私は違和感しかなかった。

なにかに躓いたのだろうか?人とぶつかりそうになったのだろうか?

頭の中でいろんな理由を考えたものの納得のいく答えが見つからなかった。

それに何か隠しているような、そんな気がした私はあえて深堀りしないことにした。

「危ないなー。とにかく気を付けるんだよー」

「はい、ご迷惑をおかけしてすみませんでした。」

正直ものすごく気になるけれど、人には言いたくない領域があることを知っている。

もちろん私にも。

そういう時は詮索してはいけないのだ。

それに聞いたところで私にできることは限られているだろう。

本人から話してくるまでは聞かないようにしよう。

そう心に誓って、いつも通りの日々を送っていた。


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