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 女の子が用意してくれたのは、膝上ワンピースにベストとタイツを中心とした組み合わせが3着だった。

「あなた冒険者って言っていたから、動きやすくて可愛い物を選んだの。どうですか?素材は肌触りがよくて丈夫な綿と革なんですよ。お兄さんがお金持っていそうだったから、麻じゃなくて、綿を選んだんです。試着室があるので、試着もできますよ」

 悪びれるふうもなく、しれっと高価なものを選んだという女の子。ニコッと笑ったときに口元に覗く八重歯が可愛らしい。


「これをもらおう。リア、好きなものを選んで着替えてくるんだ」

「うん」


 わたしは、初めて手に取る新品の服にドキドキしながら試着室へと入った。

 普段着ている麻の服に比べて、綿の服はやわらかく肌触りがいい。下着もあったので、それを身に着けた。いままでより、胸が大きくなったような気がする。


 試着室を出ると、荷物を抱えたディルが待っていた。

「あ、よく似合ってますよ。うんうん。あなた素材はいいんだから、こういう可愛い恰好をしたほうがいいわよ」

「そうだな。よく似合ってる」

 ディルにも褒めてもらって嬉しくなった。


「支払いは済ませてある。次は靴屋に行くぞ」

「あ、うん!」

「ありがとうございましたー!」


 それからブーツと皮鎧、短剣などを買い込み、宿屋へ一旦戻った。

 空間収納はあまり人に見られないほうがいい。というわけで、宿屋の客室に荷物を持ち込んでから、荷物を空間収納にしまった。

「さて。遅くなったが、昼ごはんにするか」

「うん!」


 そうして、宿屋の1階にやってきた。宿屋の1階は食堂になっていて、美味しそうな匂いが漂っている。お昼の混雑時を過ぎて、食堂内の人はまばらだ。

「あら。服を買ったのね」

 食堂でウエイトレスをしているお姉さんが声をかけてきた。

「うん。そのほうがいいわよ。前の服はね………あんまりにもボロボロだったからさ。ここだけの話、あんたが奴隷として買われてきたんじゃないかって心配してたんだよ。でも、違ったんだよね。よかったよ」

「奴隷??」

「そう。このルゼルト国には奴隷制度はないけどさ、隣のドュカーレ帝国には奴隷がいるっていうじゃない。ここだけの話、お兄さんが奴隷商人なんじゃないかって疑ってる連中もいたんだよ」

「俺は奴隷商人ではないぞ」

「そうだろうねえ。いい男だもんね。ふふふっ」


 いい男?かっこいいってこと?

 ディルを見ると、ため息をついていた。

 見た目だけで人を判断するなってことかな。


 料理の注文をすると、ウエイトレスは奥の料理人に注文を伝えるべく去って行った。

「………宿を変えたほうがいいかもしれんな」

「どうして?」

「ふむ。それは………」


「ここに奴隷がいるっていうのはほんとか!!」


 ディルの言葉は、突然食堂に駆け込んできた少年の言葉でかき消された。

「はぁ、はぁ、奴隷商人め。隠れてないで出てこい!」

「坊ちゃま、落ち着いてください。そんなこと言っても、奴隷商人は出て来ませんよ」

 坊ちゃまと呼ばれた少年は、護衛らしき男をひとり連れていた。上等そうな服を身に着けているところを見ると、貴族かもしれない。


「あらあら。ラウル坊ちゃんじゃありませんか。なにを騒いでいるんです?」

 厨房から料理人とウエイトレスのお姉さんが顔を覗かせた。

 食事をしていた客も、外の通行人も、なにごとかと少年に注目している。


「聞いたぞ。ここに奴隷を連れた奴が泊っているんだろう?ルゼルト国では奴隷を認めていない。もちろん、我が領都でもだ。だから、奴隷を解放するために来た。教えろ。どいつが奴隷だ」


 この少年は、なにを言っているんだろう?この食堂の、どこに奴隷がいるというの?

 ディルを見ると、やれやれと首を振りながら立ち上がった。


「なんだおまえ!奴隷………ではないな。じゃあ、奴隷商人か!?」

 ディルの身なりを見て、奴隷ではなく、奴隷商人だと判断した少年。彼の頭の中には、奴隷と奴隷商人しかいないの?


「俺はただの冒険者だ。騒がしいから、他所へ行く」

「待て!まだ、どいつが奴隷と奴隷商人かわかっていない。見つけるまで、誰もこの場を動くな!」

「ほう。この俺に命令するか。おまえ、何者だ?」

 ディルの目が細くなる。イラついているのだ。

「僕は、このヘレンスカの領主の息子ラウル・ヘレンスカだ!わかったら座れ!」

 なるほど。それで、偉そうにしてるんだね。

 

「あ、あの、ラウル様」

 食堂で食事していたひとりの男性が、おずおずとラウル少年に声をかけた。

「なんだ」

「お探しのふたりは、たぶん、その男と少女ですぜ」

 そうして、男性はわたしとディルを指さした。

「「はあっ!?」」

「なにいっ!?よしドノバン、その男を捕まえろ!」

「えっ?さっき冒険者だって名乗ってたじゃないですか。奴隷商人なんかじゃないですって。それに、そっちの女の子はとても奴隷には見えません。なにかの間違いじゃないんですか?」


 護衛が冷静にラウル少年を説得しようとする。

 だけど、ラウル少年はディルを捕らえろの一点張り。

 仕方ないので、自分で説明することにした。

「あの、わたしは奴隷じゃありませんよ。ただの冒険者です」

 そう言って、さっき冒険者ギルドで作ってもらったばかりの身分証を見せた。

 ラウル少年の目が、大きく見開かれる。


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