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52 報告と贈り物

 わたし達は急いだおかげで、領都ヘランスカの門が閉まる前に中に入ることができた。

 バートン親子を先に警務部を送り届けたあと、事情を説明し、明日、ハック騎士隊長が再び警務部を訪れることになった。 

 ヘレンスカ家の領主邸へ行くと、わたしとディルも一緒にヘレンスカ伯爵に報告することになった。

 前回と違い、今度は執務室へ通された。

 そこにはすでにヘレンスカ伯爵とラウル少年、そしてドノバンがいた。伯爵夫人はいなかった。

 今回は辺境の村の問題だから、伯爵夫人は興味がないのかもしれないね。


 ハック騎士隊長が丁寧に説明してくれている間、ヘレンスカ伯爵は静かに話を聞いていた。

 以前のヘレンスカ伯爵ならありえなかったことで、驚いた。

 前に会ったときより冷静で、落ち着いていて、これぞ貴族、という感じがする。

「そうか。わかった。警務部には、わしからも言伝を届けさせよう」

 声までも落ち着いていて、前のようないらついた感じが感じられなかった。大人の余裕さえ感じられる。

「しかし、ナーラ村がそんな状態だったのは、思ってもみなかった。よく、無事に解決してくれた。リアとディル、褒美はなにがいい?」

 聞かれて初めて、褒美のことを考えていなかったことに気づいた。

 

 今回のことは、騎士達と協力してナーラ村の問題を解決したから、褒美が出るのは当たり前だよね。

 なにがいいかな?お金?………はあるし、服?………は、王都で沢山作って来た。いまは、特に欲しい物ってないね。

 ただ、しばらくはここ領都ヘランスカを拠点に活動する予定だから、生活拠点が欲しいとは思う。宿屋に寝泊りするのは、家とは違ってくつろげないから。家で過ごしていた頃と違って落ち着かない。


 トリムの森を離れてみて思うのは、トリムの森は居心地が良かったということ。獣も魔物もたくさんいるから危険だけれど、その分、狩りの腕が上がった今では食料に困らない。鳥のさえずりと、木の葉の擦れる音が耳に心地よくて、空気も綺麗だった。わたしの故郷はトリムの森だ。いつかは、あの森に帰ろうと思う。

 でも、そのためには、ナーラ村が変わってくれないと困る。あんなに付き合いづらい人々ばっかりじゃ、協力して生活していくのは大変だもの。


 とりあえず。褒美は思いつかない。だから、決めるのは後からでもいいかな?

「リア、欲しい物はないのか?」

「うん。考えてみたけど、思いつかなかった。ディルは?」

「俺も特にない」

「それじゃあ、ヘレンスカ伯爵、褒美は後日でもいいでしょうか?いまは、欲しい物が思い浮かびません」

 そう言ったわたし達に、ヘレンスカ伯爵はにっこりと微笑んだ。


「かまわんぞ。しかしこれで、おまえ達には借りができたことになるな。はっはっは」

 本当に、どうしてしまったの?ヘレンスカ伯爵は、こんなに穏やかな人じゃなかったはず。記憶操作が、ここまでヘレンスカ伯爵を変えてしまうとは思わなかった。

 これからは、記憶操作は慎重に行ったほうがよさそう。

「さて。おまえ達がナーラ村へ行っている間に、王都から荷物が届いている。客間に置いてあるから、受け取ってくれ」

「ありがとうございます」

「私が部屋まで案内しよう」


 ラウル少年が部屋までの案内をかってでてくれた。 

 ハック騎士隊長達と別れて、ラウル少年に客室のひとつに案内してもらった。

 通された部屋は広く、そして、大量の荷物が山と積み上がっていた。明らかに、想像していたより箱の数が多い。


「あれ………?こんなに選んだっけ?」

 思わず、素の言葉が出ていた。

「いや。これらは、ヘレンスカ家とレイノルズ家からの贈り物だ。リアとディルの冒険者用の装備、普段着、礼服、部屋着、寝間着、そしてそれぞれに合う靴や服飾品も揃えてある。『女神の泉』のデザイナーが君達のことを気に入って、色々と作成してくれたそうだ。良かったな」

 ラウル少年が楽しそうに説明してくれた。

 

 冒険者用の装備はありがたい。普段着は、まあ、着ることもあると思う。礼服は、散々、試着させられたので、これもわかる。でも、どうして部屋着と寝間着を分けて作るのか?それがわからなかった。部屋着は着る機会がないように思うんだけど………。おまけに、それぞれに合わせた靴や服飾品まであると言われたら、途方に暮れてしまう。

 空間収納があるから、収納に困ることがないのが唯一の救いかな。

 

「こんなにいらないぞ?」

 うん。ディル、わたしもそう思う。

「すべて、君達の物だ。いらなければ、売ってもいい」

 ラウル少年はニコニコしているけれど、「全部持って帰れよ?」と言いたげなオーラを放っている。


 貴族の作法は知らないけれど。せっかく準備をした贈り物を受け取ってもらえないのは辛いと思う。

「………わかりました。ありがたくいただきます」

 声を振り絞るように言うと、ラウル少年はそれはいい表情で笑った。

「そうか!それでは早速、着替えてみるといい。お風呂に準備もさせているからな」

 お風呂は嬉しい。

 お風呂を準備してくれたということは、食事の用意もしてくれているよね?

 ディルが食事のことを考えたのか、表情を緩ませた。




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