4 無謀な5人組
わたしは森で薪を拾って、魔法で火を起こした。その間、ディルは森でホーンラビットを3羽狩って来てくれて、手早く捌いてくれた。味付けはわたしが持っていた塩だけだったけれど、美味しかった。肉はわたしとディルで食べてしまい、残った皮は空間収納にしまった。
ディルは見かけによらず、よく食べるんだよね。
少し離れた場所では、同じく野宿をする集団がちらほらいた。
夜の間は領都ヘレンスカの門が閉まるから、領都に遅くに着いた人達が朝まで野宿をして過ごすようだ。
どうも、他の野宿をしてる人達から視線を感じるんだけど、どうしてだろう。わたしもディルも身ひとつに見えるから、怪しんでるのかもしれない。それか、エナを盗もうとしてるとか………。なにか仕掛けてきたらそのときだ。
ディルと交代で見張りをして、わたし達は日の出前に焚火を消して出発した。
近くで野宿していたひとつの集団が、少し時間をおいてついて来た。
怪しい。すごく怪しい。
まぁ、どうせ後をつけられるなら、見張れる場所にいたほうがいい。エナには乗らず、領都ヘレンスカの門を目指して歩いた。
そのあとを、5人パーティーが一定の距離を開けてついて来る。
「………あいつら、ここで始末しようか?」
ディルが物騒な提案をしてくる。
「ううん。まだなにもしてないし、放っておいていいよ」
「ピヨー」
領都ヘレンスカの門の前に着くと、日が上り、中に入ろうとする者の行列が出来ていた。その後ろに並ぶ。
行列に並んでいるのは、旅人から冒険者、商人と様々だ。種族も色々いる。でも、どの人もわたしよりは綺麗な服を着ている。急に、自分がボロを着ているのが恥ずかしくなった。
「どうした?」
「ピヨ?」
俯いていると、ディルとエナに声をかけられた。
「うん。わたしの服、ボロボロだなぁって思って。一緒にいるの、恥ずかしくない?」
「そんなことはない。なにを纏っていても、リアはリアだ。だが………ふむ。こうすればよかろう」
ディルはポケットから出すふりをして、空間収納から白いマントを出してわたしの肩にかけてくれた。軽く、柔らかい手触りに驚いた。そして歩きながら、前の留め具を留めてくれた。
恥ずかしく思っていた服が、マントで隠れた。
「ありがとう」
「よい」
ディルに笑いかけたとき、
「ピヨーーーー!!」
エナの鳴き声が響いた。
振り向くと、さっき後をつけて来ていたパーティーが、それぞれ縄を手にエナを捕まえようとしていた。
なんて無謀なことをするんだろう。
マグナは強い。それはもう、強い。羽毛はもふもふで、つぶらな瞳の可愛い鳥だけども。怒れるマグナはオーガでさえ簡単に倒すという。
しかも。マグナは仲間意識が強い。
案の定というか、エナの鳴き声を聞きつけた他のマグナが騒ぎ出した。馬車や荷馬車に繋がれたマグナも、こちらへ来ようとしている。騎乗されているマグナは、続々と駆け付けて来ている。
「くそっ。静かにしろ!」
「美味い餌やるからおとなしくしろよ」
「まずいぞ。他のマグナが集まってきてやがる」
「いいんだよ。こいつを捕まえちまえば、こっちのもんだ」
「そうさ。首根っこを捕まえちまえば、俺達のもんだぜ」
エナと格闘している連中が、好き勝手なことを言っている。
「おまえ達、なにをしている!!」
門を警備していた警備兵達が、騒ぎを聞きつけて駆け付けて来た。
「へへっ。お騒がせしてすみません。こいつが急に縄を外して逃げようとしたもんで。すぐ捕まえますから、お待ちください」
「そうか」
えっ?そうかって、どういうこと?騎獣として飼っていたら、こんなに暴れるはずないじゃない!
もしかして、この連中はグルなの?
このまま見てるだけだったら、エナを取られちゃう!
「エナ………!」
「待て、リア。エナに任せるんだ」
「でもっ」
「ピヨッピーーー!!!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
怒れるピヨに、仲間が現れた。
背中に人や荷物を乗せたまま、マグナがエナを庇うように立ち塞がった。頭の羽が逆立っていて、誰が見ても怒っている。
こうしてマグナが並んでいるのを見ると、よくわかる。他のマグナに比べて、エナはひと回り体が大きい。いい物食べてるからかな。
怒りで体を大きく膨らませて威嚇している様子は、マグナ達のリーダーのように見える。
「ピヨ!!」
まるで、「やっておしまい!」と指示しているように聞こえた。
「ピヨ!」
「ピヨ!」
「ピヨ!」
マグナ達は返事をすると、鋭い嘴で5人組をつつき始めた。
「「「「「ぎゃあ~~~!」」」」」
マグナに追いまわされて逃げ回る5人組。
それを呆然と見つめる、周囲の人々。
温厚なマグナは、滅多なことでは怒らない。だけど、群れを守るためならいくらでも攻撃するのだ。
つまり、5人組を仲間とみなしていないということ。
「あの、助けなくていいんですか?」
「いや、どうやって助けろって言うんだよ!」
警備兵に声をかけたけれど、警備兵は及び腰だ。無理もない。1頭だけでもマグナは強い。それが群れとなれば、手に負えないのだ。
「あ、あのマグナはあんたのだろ?止めてくれ!奴らが死んじまう!」
さすがに死ぬようなことはないと思うけど、そろそろ止めたほうがいいのは事実だ。