21 アメジストもあるよ
「ディルは、少しは話がわかるようだな。リア、対価を受け取ってくれ。と言っても、いまは手持ちが足りないから、王都に着いてから払うことになるが」
これ以上、ラウル少年を困らせたらいけないよね。
「わかりました。受け取ります」
「よかった!」
そのとき、ほっとして息をついたラウル少年の顔は、年相応の顔をしていた。普段は、ラウル・ヘレンスカ伯爵令息として気を張っているのかもしれない。
「では、その翡翠は私がお預かりいたします」
そう言って手を伸ばしたのは、ルッツだった。
「高価なものだからな。気を付けてくれよ」
「はい。それでは、私は部屋へ下がらせていただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、いいぞ」
ラウル少年が許可すると、ルッツは翡翠の原石を自分のハンカチで包み、大事そうに両手で持って部屋へ戻って行った。
「そういえば。お酒は飲まないんですか?」
ナーラ村では、大人達はお酒を好んで飲んでいた。
「護衛中の飲酒は禁止だ。覚えておきな、お嬢ちゃん」
そう言ったのは、騎士隊長だ。
「はい。騎士隊長さん」
「ははっ。私のことはハックと呼んでくれ」
「わかりました。ハックさん」
その後も和やかに時間は過ぎ、寝る時間となった。
ラウル少年の護衛をするため、ドノバンと騎士達は交代で見張りをするそうだけど、今夜はわたし達は部屋が離れていることもあり、参加しなくていいと言われた。この町は治安がよく、魔物も襲って来ないから、と。
そして翌朝。朝食の時間になっても現れない者がいた。ルッツだ。
「マグナも一頭いなくなっていたぞ!」
マグナ舎へ様子を見に行った騎士が言った。この騎士は、ロイドと言った。
「くそっ!翡翠も消えている。まさか、ルッツが盗むなんて………」
「しかし、予定を崩すわけにはいかない。我々は、このまま王都ディートヘルムへ向かうしか………」
「だが、ロゼリア様へのプレゼントはどうしたらいいんだ?」
「それなら。まだ石はありますよ」
ポケットから出すふりをして、再度、石を空間収納から取り出した。表面がごつごつしていて、わたしの拳二つ分くらいの大きさがある。紫色に輝いていて、透明度が高い。
「「「「アメジスト!!」」」」
叫ぶと同時に、ドノバンと騎士達で体を使ってわたしごとアメジストを隠した。4人に囲まれて、ちょっと息苦しい。
次に、それぞれがハンカチを出し、アメジストを包んだ。厳重に包まれたそれを見て、4人はふう~とため息をついた。
「頼むから、そう気軽にほいほいと貴重なものを出さないでくれるか」
「これは、昨日の翡翠の何倍も高価じゃないか?」
「ううむ。ここまでのものは、値段が想像つかない」
「怪我の功名というやつか」
「「「違うだろ!!」」」
うん。すっかり息が合ってるね。
「あっ。ラウル様。これを………」
ラウル少年が近づいてきたので、何重にもハンカチで包まれたアメジストを差し出した。
ラウル少年は、その包みがなにかわかっている様子で、首を横に振った。
「ああ。そこで見ていた。それは、リアが持っていてくれるか?僕らが持っているより安全なようだからな」
そうだね。空間収納にしまっておいたほうが安全だね。
「わかりました」
わたしはアメジストをポケットにしまうふりして、空間収納にしまった。明らかにポケットには大きすぎるサイズなのに、誰もなにも言わなかった。
「さて。そろそろ御者が来る時間だろう。外に出て待っていよう」
ラウル少年が声をかけると、みんなぞろぞろとその後をついて外に出た。いつの間にか、宿の支払いは済ませていたみたい。
宿の外に出ると、御者2人と荷馬車がわたし達を待っていた。
御者はわたし達とは別の宿屋に泊まっていたんだよね。だから、昨日の翡翠のことも、ルッツの翡翠持ち逃げも、もちろんアメジストのことも知らない。だから、ラウル少年やドノバン、騎士達の表情が暗いことを不思議そうに見つめている。
そのまま待っていると、宿の人が馬車やマグナ達を連れて来てくれた。
エナも元気そうだ。
ちなみに、鞍を用意する時間がなかったというのもあって、わたしとディルは鞍なしでエナに乗る。慣れているから、ちっとも問題ないけどね。
準備ができると、王都ディートヘルムへ向かって出発となった。
「この町から王都へは、半日ってところだな。夕方には着くだろう」
マグナを並べながら、ハックがそう教えてくれた。
ルッツがいなくなった分、隊列の先頭をわたし達が務めることになったの。
「ラウル様は、よくロゼリア様に会いに来られるんですか?」
「いや。年に2回くらいだな。ロゼリア様のお誕生日と、新年のお祭りのときくらいだ」
いまは新年じゃないから、お誕生日をお祝いするために行くんだね。そっか。それじゃあ、プレゼントにも気合が入るね。
「そういえば。宝石って、簡単に加工できるんですか?飾り付けとか、腕のいい人に頼まないとおかしな物ができあがりそうですよね?」
「あっ」
「??」
「そういえば、そうですね。急いで、宝飾加工人を見つけないと!」




