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 トリムの森は季節に関係なく獲物が豊富だ。夏でも、冬でも関係ない。

 確かに、前にナーラ村へ行ったのは2か月前だし、今日までに仕留めた獲物の毛皮は取っておいてある。でもそれは、トリムの森を出て暮らしていく時の生活費にあてるためのもの。バートンさんに渡すわけにはいかない。


「なんと言われても、渡せません。お帰りください」

 そう言って、わたしはバートンさんを見上げた。

 髭面のバートンさんは、わたしより頭ひとつ分背が高い。自然と、見上げる形になってしまうのだ。


「今日のことは、許さねえぞ。覚えとけ!」

 しばらく睨み合う形になったけれど、バートンさんが悪態をついて去って行った。当然、塩はくれなかった。  

 生き物にとって塩は大切だけど、バートンさんから貰えなくても、わたしは別に困らない。

 なぜなら、トリムの森は南が海に面しているから、塩が足りなくなれば海へ行って調達してくればいいの。トリムの森は広大だけど、エナに乗れば海まで行ける。

 

 だけど、そのことをナーラ村の人に知られたら利用されかねないから黙っているの。怪しまれないように、ときどき物資を交換してもらうときに、塩も交換してもらっているよ。

 

 ところで。トリムの森やナーラ村は、ルゼルト国に属している。国の南にトリムの森があって、西に海があり、東に山々が連なっている。そして北の草原を抜けると、ドュカーレ帝国がある。トリムの森がある分、国土は広いけど、国の規模としては小さい。

 わたしは、トリムの森を出て、ひとまず領都ヘランスカを目指そうと思っている。領都なら、冒険者ギルドもあるはずだから。


 世間知らずで、特技がなくてもなれる仕事と言えば冒険者だよね。

 お父さんが冒険者だったから、色々教わったよ。火の起こし方とか、テントの張り方とか。子供だったから、武器の扱い方は教えてくれなかったけど。代わりに、お母さんが魔法の使い方を教えてくれた。薬の作りからは難しくてなかなか上手くいかなかったけど、魔法の才能はあるって褒めてくれた。

 おかげでひとりで狩りもできるようになったし、友達もできた。


 そう!友達!


 わたしには、たったひとりの友達がいる。

 白銀の髪に、緋色の瞳の美しい友達。ディル。

 ディルとはトリムの森で出会った。わたしがエナと一緒に木の実を集めていたときに、ふいに現れたのがディルだったの。最初は、冒険者かと思った。でも、冒険者には似つかわしくない白い服を着ていて、優雅な雰囲気を漂わせていた。護衛はひとりもいなくて、たったひとりで現れた。

 そして、普段、人に対して警戒することのないエナが、ディルに対して怯えた様子を見せた。マグナは強くて人懐っこいから、そんな反応をするなんて信じられなかった。

 ディルがエナに何事か囁くと、エナは落ち着きを取り戻した。それも不思議だった。

 

 とにかく、ディルはわたしのたったひとりの友達になってくれた。知識も能力も高くて、わたしが知らないことを色々と教えてくれた。

 わたしが小さい頃にお父さんが亡くなって、去年お母さんが亡くなって、それでも家を離れようとしなかったのは、ディルがいたから。

 

 だけど。ディルがどうやってトリムの森までやって来ているのかわからなかった。トリムの森へ来るにはナーラ村を通るはずなのに、ナーラ村の人は誰一人として、わたしにディルのことを聞いて来たことがない。そんなのおかしいよね?

 だから、ディルに聞いたことがあるの。「どこに住んでいるの?」って。ディルは、ただ笑っただけだった。


 ディルは謎が多い。わたしが出会ってから5年は経つのに、ちっとも年を取ったようには見えない。

 この世界には、人間以外の種族が存在する。美しいエルフに、鉱山などで暮らすドワーフ、水辺で暮らす魚人やリザードマンなどがいる。

 ディルは人間みたいな姿をしていて、年の頃は25~26歳に見える。その姿のまま5年という月日を過ごすのは人間にはできないから、エルフかもしれないと思った。でも、ディルの耳はエルフのように尖っていないから、ハーフエルフかもしれない。


 そしてディルのそばにいると、圧倒的な安心感がある。ディルがいると、獣も魔物も近寄って来ないの。

 ディルが結界を張っているわけじゃない。ただ、弱者が強者を恐れて逃げていくような、そんな感じがする。

 トリムの森を離れることで心残りがあるとすれば、ディルを残していくこと。

 友達と離れ離れになるのは寂しい。


「ねえ、エナ。やっぱりやめようかな?」

「なにをやめるって?」

 そう言って不思議そうな顔で立っていたのは、ディルだった。


「ディル!会いたかったよ!」

 そう言って、ディルに抱きついた。

 長身のディルは、わたしより頭2つ分ほど背が高い。

「俺も会いたかったぞ」

「ディルに話があったの。来てくれてよかった」

 そう言って見上げると、ディルが目を細めてわたしの頭を撫でてくれた。

「そうか。ベンチに座ろうか」

 ディルに誘導され、家の前に置かれたベンチに並んで座った。


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