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 わたしは混乱しながらディルを振り返った。

「ディル。これ、鏡じゃないよ。だって………」

「いや、鏡だ。見てみろ」

 ディルはわたしの肩に手を置くと、わたしと一緒に鏡を覗き込んだ。

 鏡の中には、ひとりの少女と美しい青年が映っている。うん。ディルがいる。

「………」

「………」

「リア、鏡はそのままの姿を映す。これがリアだ」

「ええっ!?そんなはずないよ!わたしがこんなに可愛いわけないじゃない!」

「いい加減、俺の言葉を信じろ。リアは可愛い。この鏡は正しい」

「でも………」


 お父さんもお母さんも、わたしを可愛いと言ってくれた。でもそれは、親だからだと思っていた。ディルが可愛いと言ってくれるのも、小動物を可愛いと思うのと同じ感覚だと思っていた。ナーラ村の人々に何度も繰り返し馬鹿にされてきたわたしが、可愛いはずないって思ってた。

「リア?少しづつでいい。自分に自信を持て。おまえは可愛い」

 頭をポンポンと撫でられた。

 鏡の中の少女が、顔を赤くする。


「はぁ~。ふたりとも、僕がいることを忘れているんじゃないか?」

 振り返ると、ラウル少年が苦笑していた。

「ごめんなさい」 

 鏡に夢中になって、すっかり忘れてた。


「ふたりは恋人同士だったんだな」

「違いますよ?」

「リアは友人だ」

 ラウル少年の言葉に、同時に反論していたわたしとディル。

 思わず顔を見合わせ、笑ってしまった。

 その様子を見ていたラウル少年に、「やっぱり怪しい」と言われてしまった。


「まぁ、今夜はゆっくり休んで明日に備えてくれ。朝7時に出発するからな」

「はい」

「わかった」

 ラウル少年を見送り、わたしとディルはメイドさんが運んでくれた食事を食べた。時間が遅かったせいか冷めていたけれど、とても美味しかった。


 そして、ディルが清浄魔法をかけてくれて身綺麗になったところでベッドに潜り込んだ。もちろん装備や靴は脱いでいて、服だけになっている。布団はふかふかで、良い匂いがした。でも、物足りない。

 たぶん、いつもエナと一緒に寝ていたせいだと思う。

 ちらりとディルを見た。エナのようにふかふか、もふもふではないけれど、暖かいのは確かだと思う。

「………」

「なんだ」

「そっち行っていい?」

「………」

「だめなら………」

「だめだとは言ってない!」

 

 ということは、、行っていいのかな?

 ディルがわたしに背中を向けたので、自分のベッドを抜け出し、ディルのベッドに潜り込んだ。

 ディルの背中は広く、暖かい。わたしは安心して、ディルの背中にくっついて眠った。


 目覚めると、仰向けに寝るディルの腕に抱きついていた。細いけれど、逞しい腕だ。

 ディルを起こさないようにそっと体を起こしたつもりが、ディルを見るとわたしを見つめていた。

「ごめんね。起こしちゃった?」

「………いや」

「少し寝たら?出発まではまだ時間があるよ」

「いや、いい。1か月くらいなら、寝なくても平気だしな」

 1か月って………冗談だよね?


 ディルはベッドから起き上がると、大きく伸びをした。

「腹が空いたな。飯はまだか?」

「ふふっ。ディルってば、食いしん坊だよね」

「本当は食わなくてもいいのだが、食事は美味いからな」

「ご飯食べなくてもいいの?」

 じゃあ、なにを食べるんだろう?


「俺は、魔素があれば生きていける。空腹は埋まらんがな」

「へえ。魔素ってあれだよね。空気中に漂ってる、魔法の素」

「そうだ。リアは魔素が見えるのか?」

「ううん。でも、肌で感じるよ。トリムの森は、魔素が濃かったよね。ここは、トリムの森より魔素が薄いよ」

「そうだ。人の暮らす場所は、魔物が狩られているからな。魔素は薄い。その分、人にとって暮らしやすい環境だと言える」


「魔物がいないと魔素が薄いの?」

「魔物は、繁殖によっても生まれるが、魔素だまりからも生まれる。魔物が体内に魔石を持っているのは、魔素を貯め込んでいるせいだ。魔物を狩り、魔石を取り上げてしまうと、周囲の魔素が一時的に薄くなるのだ」

「魔素が薄いとどうなるの?」

「魔物が生まれにくくなる」

 と、そこまで話してメイドが食事を運んで来たので、話はおしまいとなった。


 食事を終えて部屋の時計を見ると、時間はすでに6時半となっていた。屋敷の入口に向かうと、すでに人が集まっていた。長距離に向いたマグナ馬車が一台あり、その前後に護衛用のマグナと荷馬車がいる。

 わたしとディルを見つけたドノバンが、こちらへ駆け足でやって来た。

「おいおい。その恰好はなんだ?」

「え?なにかおかしいですか?」

 自分の恰好を見つめても、なにがおかしいのかわからない。わたしはシャツにワンピース、タイツにブーツを履いていて、革の軽鎧を身に着けている。腰には短剣を佩いていて、杖は使ったことがないので持っていない。なにもおかしいところはないように思う。


「これから旅をするってのに、水筒のひとつも持ってねえ。いくら旅の間の食事や宿は依頼主が用意するからって、それはないんじゃねえか?」

「あ、水なら、魔法で出せるので大丈夫ですよ。ほら」

 わたし両手を合わせ、手のひらから水を出して見せた。バシャバシャと水が地面に落ちていく。

「お、おうっ。そうか。あんたら、魔法使いだったな。でもよ、寝るときはどうするんだ?食事は?いざというときの薬も必要だぞ」

「野宿なら慣れている。心配いらない」

 そう言うと、ディルはエナのところへスタスタと歩いて行った。


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