体育館
小学生の頃の話です。
いつもの部活終わり、下っ端の私は急いで片付けを終わらせようと体育館を走り回っていました。
時刻は現在午後7時。
夏なので日が延びたとはいえ、そろそろ夕日が沈む時刻。何故急いでいるのかといえば、夜の体育館に幽霊がいる噂を聞いたからです。
先輩達が、私をビビらせる為にそんな話をしたのは分かっていましたが、怖いものは怖い。急いで片付けを終わらせようと体育館を走り回りました。しかし、結局片付けが終わった頃には、外はだいぶ暗くなっていました。
着替えをしに更衣室へ向かうと、ほとんど人がおらず、私が着替えを終わらせる頃には皆は帰っていました。
結局、最後の電気を消す役になってしまいました。この役が嫌で急いで片付けをしたというのに……。
体育館の電気はステージ横の放送室で操作出来ます。そしてそれは、体育館の出入口と真反対の位置。
つまり、電気を消して外に出るには、真っ暗になった体育館を端から端まで歩かなくてはいけませんでした。
一緒に放送室に来てくれる人は誰もおらず、渋々1人で放送室に向かいました。
放送室には小窓が付いていて、体育館が少し見渡せるような形になっています。そこから人がいないのを確認して体育館の電気を消します。
バチン、バチン、と電気を落とす音が響き、辺りは真っ暗になりました。窓から若干の月明かりが差し込んでいるため、完全な暗闇にはならずに済みそうです。
そして、急いで後ろの扉から放送室を出ようとした時、バン! という音が後ろから鳴り、私は固まってしまいました。
少しの時間が経って、また、バン! バン! という音が鳴りました。自分を呼んでいるような気がしました。
私は怖いと思いつつも、正体を確かめたい気持ちが勝り、ゆっくりと音がする方を振り返ってみました。
普段は体育館が見渡せる小窓。
しかし今は、青い顔をした女の子の顔がありました。
バン!
また音が鳴ります。その子が小窓を叩く音のようです。
恐怖も度が過ぎると叫び声すら上げられなくなるようで、私は無言で放送室を出て、出入口に向かって走りました。
走っている間、体育館の窓をバンバンしてる音が聞こえましたが、今度は見ないように下を向いて走りました。
外に出るための玄関に繋がる、引き戸に手をかけましたが、開きません。
「開けて! 出してよ!」
そう叫びましたが、当然のように開きませんでした。
後ろからぺたぺた、と体育館を裸足で歩いているような音がします。
どうしたら良いか分からず、私はしゃがみこみ、膝に顔をうずめました。今度はそちらを見てはいけないような気がしたのです。
ぺたぺた。
ぺたぺた。
ぺた。
足音は近くで止まり、
すぅ。
耳元で息を吸う音が聞こえ、何かを言おうとしていることがわかりました。
その瞬間、目の前のドアが勢いよく開きました。
思わず顔を上げると先輩が立っていました。
「ごめん。やり過ぎた?」
半笑いの全く悪びれ無い様子で謝ってきました。
つまり、全て先輩達の仕業だったようです。
他の人たちは体育館の窓を叩いており、急いで出入口に来た私を出れないように閉じ込めるーー。
からくりに気づいた私は、安心して力が抜けてしまいました。
「あれくらいで怖がるなんて、ビビりだなぁ」
床にへたり込む私を見て、先輩は笑っています。
「さすがに暗がりで小窓に顔押し付けて、バンバン叩かれたら怖いですよ……。誰もいないの確認したはずなのに、どうやったんですか?」
「え? みんな外にいて窓とか叩いてたから、体育館には誰もいないよ?」
そんなはずない。だってさっきまで足音も近くまで聞こえていたのだから、と後ろを振り向いてみると暗い体育館があるだけです。もちろん、誰もいませんでした。
結局、放送室の小窓で見た顔や裸足で追いかけられたことを先輩達に話しても、ビビりな私の見間違いということで済ませられてしまいました。
それでも必死に説明し続けてたら、興味を持った先輩が電気を消す時、付いてきてくれるようになりました。
しかしそれ以来、あれを見ることはありませんでした。
あれは一体なんなのか、何を言おうとしていたのか。
たまに思い出しますが、今でも正体はわかりません。